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第121話「応援の理由」*大翔
「先輩」
「……何」
「冷めちゃうから、飲んで」
テーブルに置き去りにされたカフェオレを先輩に渡す。
「うん……」
受け取って、また黙って飲み始める。
黙っちゃったな。
――――……ふ、と口元、緩んでしまう。
笑った気配、感じたのか、先輩がまたオレをじろ、と睨む。
「……笑うなってば」
「別に馬鹿にしてない。なんか――――……なんとなくね」
なんか、可愛く見えて。つい。
言うのは躊躇って、言葉を濁した。
その時。先輩が持ってきて、ソファに置いてあったスマホが震えだした。
「……あ。真斗。出ていい?」
「もちろん、どうぞ。持ってますよ」
カップを受け取る。
「もしもし? 真斗?」
先輩が少し笑顔。
「うん。良かったね、おめでとう。……うん。明日は無いの? 来週の土曜か。うん、分かった。また行くね」
明日の試合は無いのか。
じゃあ、ここで、ゆっくりさせられるな……。
そんな風に思っていると。
先輩が、ふい、とオレを見つめた。
――――……?
「うん。一緒。……うん、隣の。そう。後輩……うん」
「――――……」
「四ノ宮。電話、出てくれる?」
「?――――……はい」
首を傾げながら先輩からスマホを受け取って、電話に出ると。
『あ、四ノ宮さん?』
「ああ、うん、そう」
『今日、めっちゃでかい応援、ありがとうございました』
「はは。どういたしまして」
『こないだ少しだけ会った方ですよね。オレの試合に一緒に来てくれるとか……カナと仲良いんですね』
「……そうだね」
『こんな事言うとカナに怒られそうなので内緒でお願いしたいんですけど……カナ、ちょっと心配なとこあって。……分かります?」
「……ん。何となく」
『オレ、部活忙しくて、ずっとは居られないのでちょっと心配で』
――――……弟、心配してんなあ……というのが伝わってくる。
「……大丈夫」
そう言うと、ふ、と笑う気配。
『すみません。……じゃあ、また今度どこかで』
そんな台詞を聞きながら、先輩を見ると。
先輩は、ん?という顔で、首を傾げてる。
「了解」
そう答えて、そのまま先輩にスマホを戻す。
「真斗? ――――……あ、うん。分かった。……じゃあ、来週の事、決まったら連絡して。あ、今日、心配かけてごめん……ん、じゃね」
先輩は通話を切って。じっと、オレを見つめてきた。
「何、話した?」
「んー……応援ありがとうございました、とか?」
「あぁ……」
先輩は、ふっ、と吹き出して。
すごく楽しそうに笑って。
「何で急にあんな応援しだしたの? そういうのかっこつけて、しなそうなのに」
――――……まあ。
いつもなら、しないかも。
まあ。バスケは好きだけど。別に、知ってる奴が出てる訳でもないし。
先輩の弟って言っても、別に、知り合いなわけじゃないし。
……でもまあ、本当に結構うまいなと思ったのと。
――――……なんか、すげー声出したかった、っつーのと。
まあ一番は、オレが応援しだしたら、先輩がだんだん笑顔で。面白そうな顔になってたから続けてたっつーのが最大の理由、だけど。
「――――……先輩の弟上手だったし。応援したくなったからですよ」
まあ、別に嘘ではない。
頑張ってたし。良い選手で、良いチームだった。
先輩が笑顔になっていったからという一番の理由は、なんかキモイから言わないが。
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