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第124話「おかーさん」
「先輩、ご飯できたよ」
「――――……うん」
オレが夕飯を作ってる途中に、先輩が暇そうだからテレビをつけたら、ずーっと、ぼー、と見ていて。途中でまた、手伝うか聞かれたけど断ったら、ソファの背もたれに埋まって、ぼーーー。
そんな先輩を呼んで、席に座るように促すと。
「すごい、うまそー」
リクエストがないから、好きそうなハンバーグ。
テーブルの上を見て、素直に嬉しそうに笑う。
「うん。座ってください」
「ん」
頷いて、オレの目の前に腰かける。
「いただきまーす」
普通に言って、普通に食べて、普通に笑う。
どんな感じの時でも、先輩は、こういう時は普通だ。
「なんかさ」
「ん?」
「四ノ宮のご飯て、美味しくて、びっくりする」
「それは良かったです」
「何なの、そのナリで料理も出来るとか、もはや全部で完璧を目指すの?」
「――――……別に。言ったでしょ、葛城のせいですよ」
「せいじゃなくて、おかげ、じゃないの?」
先輩はそう言い直して、クスクス笑う。
「ああ。そう、ですね」
……なるほど、おかげなのか。
葛城のポリシーのせいですげー覚えさせられたっていう感覚しか無かったから、つい……。そっか。おかげ、ね。
「ジャガイモ、うまーい!」
「マッシュポテトね」
「おいしーんだけど。お皿一杯食えそうなんだけど」
「はは。そんなに?」
「うん。好きだから、結構色んなとこで食べてきたけど。一番うまいかも」
「今度一緒につくる? 教えてあげますよ」
「え。あ。……うん」
ちょっと戸惑った顔しながらも、うん、と頷いて。
そのまま、美味しそうにまた口に入れてる。
「オレのご飯、全部うまい?」
「うん」
にっこり笑って頷く先輩。
「じゃあ、合うんでしょうね、オレら」
「うん。――――……ん? うん、そう。かな?」
ちょっと複雑そうな顔で、首を傾げつつ。
「合わないと、味覚も合わないと思うし」
「……うん。まあ。そうだね」
なんだろな、という顔。
オレは、笑ってしまいそうになりながら。
「……体の相性もよかったでしょ?」
言ったらどうなるかなと思って言ったけど。
なんか変だと思ったら、それが言いたかったのか、てな顔で、オレを見て眉を寄せて。口、膨らんでる。
クッと笑い出したら。
ますます怒った顔。
「何でそう言うので、からかうんだよ!」
「ああ、ごめん。――――……なんて反応するのかと思って」
クックッと笑いながら、口元、手で少し隠しながらそう言ったけれど。
ますますなんか、顔赤くして、怒ってる。
「まあでも――――……本気で言ってるけどね、オレ。味覚も体も、相性って、あるでしょ」
「……っ」
まだ言うのか。的な顔。
「はいはい、ごめんね。食べて下さい。もうからかわないから」
「……絶対だからな」
むむむ、と言った、なんか幼い表情で、オレをちょっと睨んでる。
「もう言わないんで美味しく食べてください。おかわりします? 水はまだ入ってる? ああ、麦茶もって来ますか?」
「――――……」
次々浮かぶことを言ってたら、先輩は、ぷるぷる首を振りながら、途端にクスクス笑い出す。
「だから……四ノ宮はオレのおかーさんか……」
そんな台詞を聞いて、ふ、と笑みながら。
まあ別に。おかーさんでもいいけどね。
……世話して、甘やかしたいし。
言ったらきっとまた怪訝な顔で見られるだろうから、黙っていた。
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