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第130話「なんか可愛い」*大翔
「いいよ。やりましょ。――――……オレ、今度は勝つから」
オレがそう言うと、先輩は面白そうな笑顔になって。
「負けねーもん。 あ、オレ、白いの集める」
クスクス笑う先輩が、手を伸ばしてきて、白石を重ねていく。
すぐ目の前の先輩。
何だか勝手に、体が動いた。
「――――……」
「え? な――――……」
後頭部に手を置いて、ぐいと引き寄せる。
「…………っ……?」
キスして。
見開いてる瞳を見つめながら、そっと離した。
「――――……っ」
先輩は、石をテーブルに置くと。
椅子の背もたれに、背を付いて座る。
――――……最大限離れられてしまった。
先輩は、口を手の甲で拭う。
「――――……何でキスすんの」
「……んー何でって言われても……」
「――――……」
じっと見つめられる。
「あー……ごめん、なんか可愛く見えるからかも」
ごまかすのも限界があって、そう言ってみたら。
予想外の返事だったのか、先輩がかあっと赤くなった。
「――――……っなんなの、お前……もー、帰っていい?」
「いやいや、帰んないで。早くやろ」
「――――……っ」
オセロはやりたいけど、こいつは嫌だ。
みたいな顔してるけど。
「明日ホットサンド食べるんでしょ?」
「…………っ」
思考回路は読めないけど、でも結局、オセロして、泊まって、ホットサンドを食べる事にはしたみたい。
ため息をつきながらではあったけど、石を手に持ってテーブルに肘をついた。
「もー、絶対勝つ」
そんな風に言う先輩。
――――……は。おもしろ。
「ん、今度白黒どっちがいい?」
「――――……じゃあ今度黒」
「じゃーどうぞ」
「どうぞじゃねーし。……キスすんなってば」
すごく複雑そうな顔をしながらそう言って、盤にひとつ石を置く。
何だかよく分からないが、かなり、燃えているらしい。
今度は、いい勝負になりそうなので、ちょっとワクワクする。
――――……別れた理由というか……先輩が恋人がいらないと言ってる理由は、今度ちゃんと、聞こう。……本当は、すげえ気になるけど。
なんかさっきみたいな感じでは聞きたくないとか。
あんな、先輩自身が、話したいのか話したくないのか。
負けたら、仕方ないから話して終わりにしよう、みたいなんじゃなくて。
オレに、ちゃんと、話したいと。
そう思ってくれた時がいいとか思うとか。
――――……せっかく聞けそうだったのに。とも思うのだけど。
……よく分かんねえよな。オレ。
今まで全部分かって考えて生きて来た気がするのに。
この人と絡んでると。
何だか、色んな事が、訳が分からなくなる。
理屈とかがつかない、自分の行動が増える。
でもなんか――――……それが嫌じゃない気がするとか。
それもよく分かんねえ。
なんか最近分かんねえことばっか。
――――……この人の事ばっか、考えてる気がするし。
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