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第131話「らしくない」*大翔
結局、それから2回、対戦した。
1回はオレが勝って、もう1回は先輩が勝った。どっちもギリギリ。気を抜けない感じで、最後まで。こういうの、楽しいなと思う。
ものすごい真剣な顔も。
なんとなく、つい、眺めてしまう。
先輩の提案で、1回目の勝負はチャラにしようって事になったから、お互いが超真剣にやって、一対一。
正直、葛城はかなり強いと思ってる。
過去に何度か葛城以外と対戦したけれど、余裕で勝つ。なのに葛城とは、ほぼギリギリで負ける事の方が多い。そのオレと互角って事は、先輩も、葛城と互角に戦えるっつーことだよな……。葛城に言ったら喜びそう。
「どーしますか、もう一回やって、決着付けますか?」
オレがそう言うと、先輩は、んーと考えた後。
「いいや。今は互角ってことにしよう? なんかすっごい頭使って、疲れちゃった。また今度」
「確かに。疲れましたね」
ふと時計を見上げると。
結構な良い時間だった。
「オレ、シャワー浴びてきますね。先輩、寝る準備して、布団、入っててもいいですよ――――……あぁ、ベッド、一緒じゃ嫌ですか?」
「え。布団、無いの?」
「あるけど、別にあのベッドでかいし、くっつかなくても寝れますけど」
「――――……」
明らかにめちゃくちゃ嫌がってるのは分かるけど。
――――……布団出す気とか、全く無いけどね、オレ。
こういう時、どう話せば、この人がオレの思惑通りになるか。
段々分かってきた気がしていて。
ちょっと試してみる事にする。
「それともオレと寝ると意識しちゃうから、無理ですか? そうなら、まあ、布団出してもいいですけど……」
すると、先輩は、またまた新たに物凄く、嫌そうな顔をして。
「してないし。意識なんか。別にオレ、誰とでもいっしょに寝れるし」
――――……つか。それもまた、聞き捨てならないけど。
まあいいや。アホみたいにノッてきたから、今は余計な事は言うまい。
「じゃあ布団出さないんで。もう先寝ちゃっててくれて良いですよ。オレ、湯船浸かりたいんで、遅くなるし」
先寝てて、という言葉で、きっとこの人は、安心する。
その為に選んだ言葉に、先輩は案の定ホッとしたみたいに、オレを見つめた。
「うん。分かった。先、寝てる」
……なんだかなぁ。ほんと。
――――……思う通り。素直すぎ。まっすぐすぎ。簡単に、煽られて、むきになって、単純で。
……なんか。――――……可愛い。
と思うのは、間違ってるのか……?
普通これは、可愛いとかそういうものじゃねえのかな。
――――…… アホだなー。操りやすいなーとも思うのだけど。
…………アホな子ほど愛しいとか。そんな感じ?
まあどんな理由にしろ、これが正しいのか間違ってるのか、とにかく何にしろ、こんな感情が、オレらしくないっていうのは、分かってる。
「……じゃあ。おやすみ」
多分、オレんちで、先に寝てるとか変だなーと思ってるんだろうなぁ。
なんか決まりが悪そうな感じで、そう言って。部屋を出てくのかと思ったら、ちょっと振り返る。
「……先寝てて良いの?」
多分、その言葉通りの意味で。
人んち泊りに来てて、先寝てるとか変だと思って、そう言ってるんだろうけど。変なこと考えて、聞いてる訳じゃないと思うのだけれど。
――――……ダメ。
触れたいから。抱きたい、から。
言ってしまいそうになる。
言ったら。
また帰るって言い出して、今度はマジで帰ってしまいそうだから、言わねーけど。
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