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第132話「不愉快」*大翔

 何だかすごく気にしてオレを振り返ってる先輩の事が、何故なのか、少しだけ、可愛く見えるような気がするのだけれど。  とにかく、本当に言いたい事は隠した。 「オレ、ゆっくり入りたいから、ほんとに寝てていいですよ」  余計な事は言わないように、それだけ言って、オレはバスルームに来た。  シャワーを浴び始めて少しして、先輩が洗面台に歯を磨きに来た音と。最後に「おやすみー」と言って、居なくなる気配。  いつもはほとんど湯船には浸からない。シャワーだけで済ませてしまう。  ――――……一緒に布団に入るとか言ったら、絶対ものすごく警戒しそうだから、時間をあげたくて言っただけなんだけど。  先輩がベッドに入って落ち着くまで、ここでぼーっとしてるのも何なので、とりあえず風呂に湯を張った。  珍しくお湯につかる。これはこれで、気持ちは良いかも。  肩まで沈むと、自然と、はあと息が漏れた。  ため息は、つかない。  そう決めたけど。つきたい気分には、何度かなってる。  ――――……あの人の中の、和希の存在。  相当デカいままなのは。  別れたきり、他の奴には気持ちが向いてない、せいだよな。  別れた時の感覚と感情を、まだ持ってる。他の奴で何も上書きする事なく。  自分で触れないとか。それが、和希を思い出すからって。  それでたまったら、体だけ重ねて、どんな奴かも知らないまま。  ……何だ、ソレ。どんな思考ならそうなんの。  オレも、まあいっかで付き合った奴と寝たり。一晩とかもあるし。特別に愛してもない女と、そういうのだけ、て気持ちは分かる。別に相手もいいなら、それでいい気もする。楽だしまあ、そこそこ楽しい。  ――――……でもなんか、雪谷先輩は、違う。  あれは楽しくやってるわけじゃない。  すればするほど、病んでそう。    本当に。マジで、意味が分からない。  ……病みすぎ。  何年も経っても、そんなに好き、固執し続けるとか、どんな男だよ。  ――――……ああ。ちょっと似てるって言ってたっけ。  じゃあオレって、少しは先輩の好みって事?  ふーん…………。  何となく、息を止めて、ぶくぶくと沈んでみる。  でもどんなに好きだったって、こんなに引きずるほどに、傷ついたって事だよな。つか、何しやがった、あの人に。  ――――……引っ越す時にって言ってたし。転校して離れた事によって自然消滅でも狙ってやれば、こんなにアトに引きずらずに、済んだかもしれないのに。しばらくは、モヤモヤはしただろうけど、ここまでにはならなかったはず……。  あー、ムカつく。  何なんだ、マジで。  ていうか、オレは、なんでこんな事で、こんなに腹立ってんだ。  ざば、と顔をあげて。  髪をかき上げながら、ふー、と息をつく。  いい加減、吹っ切って、次にいきゃいいのに。  モテるんだろうし。  先輩の事好きになる奴は、きっと多いだろうし。  その中には、良い奴だってきっと……。  ……何だかよく分からないけれど、それもまた不愉快なような気がする……とか。これもまた意味が分からない。  

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