130 / 542
第132話「不愉快」*大翔
何だかすごく気にしてオレを振り返ってる先輩の事が、何故なのか、少しだけ、可愛く見えるような気がするのだけれど。
とにかく、本当に言いたい事は隠した。
「オレ、ゆっくり入りたいから、ほんとに寝てていいですよ」
余計な事は言わないように、それだけ言って、オレはバスルームに来た。
シャワーを浴び始めて少しして、先輩が洗面台に歯を磨きに来た音と。最後に「おやすみー」と言って、居なくなる気配。
いつもはほとんど湯船には浸からない。シャワーだけで済ませてしまう。
――――……一緒に布団に入るとか言ったら、絶対ものすごく警戒しそうだから、時間をあげたくて言っただけなんだけど。
先輩がベッドに入って落ち着くまで、ここでぼーっとしてるのも何なので、とりあえず風呂に湯を張った。
珍しくお湯につかる。これはこれで、気持ちは良いかも。
肩まで沈むと、自然と、はあと息が漏れた。
ため息は、つかない。
そう決めたけど。つきたい気分には、何度かなってる。
――――……あの人の中の、和希の存在。
相当デカいままなのは。
別れたきり、他の奴には気持ちが向いてない、せいだよな。
別れた時の感覚と感情を、まだ持ってる。他の奴で何も上書きする事なく。
自分で触れないとか。それが、和希を思い出すからって。
それでたまったら、体だけ重ねて、どんな奴かも知らないまま。
……何だ、ソレ。どんな思考ならそうなんの。
オレも、まあいっかで付き合った奴と寝たり。一晩とかもあるし。特別に愛してもない女と、そういうのだけ、て気持ちは分かる。別に相手もいいなら、それでいい気もする。楽だしまあ、そこそこ楽しい。
――――……でもなんか、雪谷先輩は、違う。
あれは楽しくやってるわけじゃない。
すればするほど、病んでそう。
本当に。マジで、意味が分からない。
……病みすぎ。
何年も経っても、そんなに好き、固執し続けるとか、どんな男だよ。
――――……ああ。ちょっと似てるって言ってたっけ。
じゃあオレって、少しは先輩の好みって事?
ふーん…………。
何となく、息を止めて、ぶくぶくと沈んでみる。
でもどんなに好きだったって、こんなに引きずるほどに、傷ついたって事だよな。つか、何しやがった、あの人に。
――――……引っ越す時にって言ってたし。転校して離れた事によって自然消滅でも狙ってやれば、こんなにアトに引きずらずに、済んだかもしれないのに。しばらくは、モヤモヤはしただろうけど、ここまでにはならなかったはず……。
あー、ムカつく。
何なんだ、マジで。
ていうか、オレは、なんでこんな事で、こんなに腹立ってんだ。
ざば、と顔をあげて。
髪をかき上げながら、ふー、と息をつく。
いい加減、吹っ切って、次にいきゃいいのに。
モテるんだろうし。
先輩の事好きになる奴は、きっと多いだろうし。
その中には、良い奴だってきっと……。
……何だかよく分からないけれど、それもまた不愉快なような気がする……とか。これもまた意味が分からない。
ともだちにシェアしよう!