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第133話「ほっとする」*大翔

 感情をコントロールするという事、特に怒りの感情のコントロールはトップに立つなら出来なきゃいけない。葛城がよく言う。子供の頃はよく分からなかったけど、言い続けられれば、その内嫌でも理解する。  色んな人間と絡む中で、自分の感情を見せない術も学んでしまってはいたし、自分の経験からも、本性出さずに、望むままで居れば波風立たないし楽だとも思っている。  感情を中に留めるのも、別にそこまで苦じゃない。嘘をついてるとまではいかないが、全部の感情を表に出さない事は容易だし、そうしている内に、感情の方を表に合わせる事もできてしまっている気がする。  そんな風に生きてきたから、特にここ近年は、周りはわりと平穏。  本音で言ってないことも多いから、ぶつかり合うことも殆ど無い。  ある程度納得できるならいつでも意見も変更可能。  ……本気で生きてぶつからなければ、ムカつくとかの感情も、そこまで浮かばない。  なのに。  なんなら完全に他人の事。それで、こんなすげームカつくとか。  しかも、かなり過去の事なのに。    オレが先輩に構い倒して、上書きして、忘れさせることが出来たら。  ――――……先輩は、また、恋しようって、なるのか。  1人で生きてくとか。  体だけでとか……似合わないセリフ、言わなくなるのか。    ――――……好きな人が出来てそいつとするなら、オレは退くから。  先輩の為に、というか、引かれないように、何度か言ったセリフ。  ……これ言っとけば、オレが先輩を好きだからするんだ、て事にはならないから、警戒もされないだろうと思ったし。  ――――……正直、男と一生居れるとか……今は思えないし。  ……親父や家族がどう思うかとか、家や会社継ぐかも、なのに。  ゲイとか。すぐに、確定で考えられないっていうのもある。  ――――……でもオレ、今日。  自然と言ったんだよな。 「一生恋人要らないなら、一生付き合いますよ」  一生とか。  ――――……何。超自然にさらっと。口に出したんだか。  実は結構、引っかかっている。  もういいかなと思う頃に風呂から上がって、寝る支度を整えた。  冷たい水を飲んで、先輩が寝ている、寝室へと近づくにつれて。  ――――……すこし。浮足立つような感覚。  そっとドアを開けると、オレンジ色の光にしてあって、先輩の髪の毛だけ、布団から出ていて。壁際を向いて寝ている。  最大限、壁にくっついてるみたいな寝方をしていて、思わずふ、と静かに笑ってしまった。  ベッドの端に、腰かけると、ぎし、と小さく軋む。  ――――……昨夜は、この人とホテルで。  抱いたんだよな。  オレがする、って言ったけど。何度も、キスは、したけど。  ――――……嫌がるのを襲う訳にもいかないし。  オレに抱かれたいって、言わせるには。  ――――……どうしたらいいかな。  背を向けて、寝ている姿を振り返る。  ――――……ここに居てくれるだけでも。  どこにも行かないと思えて、ほっとするから、まあ……これだけでも、いいんだけど。

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