131 / 542
第133話「ほっとする」*大翔
感情をコントロールするという事、特に怒りの感情のコントロールはトップに立つなら出来なきゃいけない。葛城がよく言う。子供の頃はよく分からなかったけど、言い続けられれば、その内嫌でも理解する。
色んな人間と絡む中で、自分の感情を見せない術も学んでしまってはいたし、自分の経験からも、本性出さずに、望むままで居れば波風立たないし楽だとも思っている。
感情を中に留めるのも、別にそこまで苦じゃない。嘘をついてるとまではいかないが、全部の感情を表に出さない事は容易だし、そうしている内に、感情の方を表に合わせる事もできてしまっている気がする。
そんな風に生きてきたから、特にここ近年は、周りはわりと平穏。
本音で言ってないことも多いから、ぶつかり合うことも殆ど無い。
ある程度納得できるならいつでも意見も変更可能。
……本気で生きてぶつからなければ、ムカつくとかの感情も、そこまで浮かばない。
なのに。
なんなら完全に他人の事。それで、こんなすげームカつくとか。
しかも、かなり過去の事なのに。
オレが先輩に構い倒して、上書きして、忘れさせることが出来たら。
――――……先輩は、また、恋しようって、なるのか。
1人で生きてくとか。
体だけでとか……似合わないセリフ、言わなくなるのか。
――――……好きな人が出来てそいつとするなら、オレは退くから。
先輩の為に、というか、引かれないように、何度か言ったセリフ。
……これ言っとけば、オレが先輩を好きだからするんだ、て事にはならないから、警戒もされないだろうと思ったし。
――――……正直、男と一生居れるとか……今は思えないし。
……親父や家族がどう思うかとか、家や会社継ぐかも、なのに。
ゲイとか。すぐに、確定で考えられないっていうのもある。
――――……でもオレ、今日。
自然と言ったんだよな。
「一生恋人要らないなら、一生付き合いますよ」
一生とか。
――――……何。超自然にさらっと。口に出したんだか。
実は結構、引っかかっている。
もういいかなと思う頃に風呂から上がって、寝る支度を整えた。
冷たい水を飲んで、先輩が寝ている、寝室へと近づくにつれて。
――――……すこし。浮足立つような感覚。
そっとドアを開けると、オレンジ色の光にしてあって、先輩の髪の毛だけ、布団から出ていて。壁際を向いて寝ている。
最大限、壁にくっついてるみたいな寝方をしていて、思わずふ、と静かに笑ってしまった。
ベッドの端に、腰かけると、ぎし、と小さく軋む。
――――……昨夜は、この人とホテルで。
抱いたんだよな。
オレがする、って言ったけど。何度も、キスは、したけど。
――――……嫌がるのを襲う訳にもいかないし。
オレに抱かれたいって、言わせるには。
――――……どうしたらいいかな。
背を向けて、寝ている姿を振り返る。
――――……ここに居てくれるだけでも。
どこにも行かないと思えて、ほっとするから、まあ……これだけでも、いいんだけど。
ともだちにシェアしよう!