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第134話「添い寝」*大翔

 入ってきてから、ピクリとも動かないし。  ――――……寝てるよな。  思いながら。  何となく手を伸ばして。先輩の頭に触れた。  髪の毛、やわらかい。  ……猫みてえ。  くしゃ、と、一度撫でてから、隣に入って寝転がった。  ――――……デカいベッドにしといて良かった。  なんて思いながら。先輩の方を向いて、片肘ついて、横向きになる。  ――――……静かな寝息。  やっぱ、昨日あんまり寝れてなかったし。昼寝もそんな長い時間してなかったし。疲れてたかな。  そっと手を伸ばして。くい、と、こちらに向けて引いてみる。 「――――……ん……」  ころん、とこっちに転がって、少し嫌そうに眉を寄せて、一瞬顔を擦るみたいな仕草をしたけれど。そのままオレの方を向いて、眠ってしまった。  すぐ目の前で、スヤスヤ眠ってる顔を見ていると。  ――――……何とも言えない気分になる。  ……これって。  きっと誰がどう見ても、可愛いよな……。  ……オレだけがそう思う訳じゃ、ねえよな。と、誰に言う訳でもないのに、可愛いと思う理由づけを、自分の中でしている。  ――――……ほんと。  なんだろうなぁ。この、可愛いの……。  空いてるほうの手を、そっと、また髪に置いた。  ――――……さら、と撫でる。  睫毛、長い。  ――――……少し開いた唇。  キスして、めちゃくちゃ、可愛がりたい、とか。  ――――……あー。よくわかんねえな。  ……抱いた時は、薬が抜けてなくて。  最後の方だけ、ちゃんと意識あったけど、薬の影響があったから。本来の反応じゃない気がして。  も一回、最初から、ちゃんと――――……したい。  親指で、そっと、先輩の唇に触れさせた瞬間。  ふ、と少しだけ瞳が開いた。  どき、と。――――……心臓が音を立てるとか。  実はオレ、あまり、無い事なんだけど。  触れていた手をそっと離して。ドキドキ弾んだまま、見守っていると。  しばらくぼーーーー、として、一点を見ていると思ったら。  ふ、と視線を上げて、オレと視線が合った。 「――――……」  視線が合ったといっても、いまだ、ぼーーとしている。 「――――……あ……四ノ宮……」  数秒経ってやっと焦点があって、オレの名を呼んだ。 「あれ…… あ、……風呂……出たの?」  なんかぽけっとした、間の抜けた質問に、ふ、と笑んでしまう。 「――――……先輩、やっぱ疲れてる?」 「んー……へーき。っても、あっという間に寝てたかも……」  苦笑いしてる。 「寝て良いですよ」 「――――……うん」 「おやすみなさい」 「ん……おやすみ」  向かい合わせも変だと思ったのか、先輩は言いながら、壁の方を向いて静かになった、のだけれど。 「――――……先輩」 「え」  ぐい、と引き寄せて。  先輩のウエストに手を回した。 「ちょ――――……何」 「……なんか。せっかくだから、一緒に寝ましょうよ」 「……やだよ、離して」 「――――……これ以上、何もしないから」 「……キスもしない?」 「こうしててくれるならしない」 「――――……」  こうしてないとするのか、みたいな顔を振り返られて、すごく嫌そうだけど。はー、と息を吐きながら、また、顔を戻して、力を抜く。 「……添い寝してくださいよ」  クスクス笑いながら言うと。 「……あまえんぼかよ……」 「何とでも言って――――……いいじゃん、せっかく同じベッドで寝てんだから。……おやすみ」 「――――……おやすみ」    はー、と息を吐きながら、もう仕方なさそうに言って。  先輩は、そのまましばらくして、眠りについた。  昨夜あんなことされてんのに。  ほんと、警戒しないなー……。  オレを信用しちゃってンのかな、とも思うけど。    なんだかなーほんと……。

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