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第138話「変」*奏斗

 もう。反応してやるもんか。  そう、思うのだけれど。 「……っ――――……」  は、と息が、あがる。  そんなに激しくはないのに。  すっかり上から抑え込まれて、顎を固定されて、深く、キスされる。  ゆっくりとした動きで。でも奥に、舌が入ってきて。  オレの舌とこすり合わせるみたいに。口内、舐められて。  ぞくりと、背筋に何かが走る。 「……ン」  抑えようとしても、声が漏れる、キスの仕方、だよな。  わざと。だ。絶対。  ……やな奴。  ぎゅ、と瞳を固く閉じて。  顔を背けようとするけれど、無駄なあがきで。  四ノ宮の手を振りほどけない。 「……ふ……っ」  息を求めて、喉がヒクつく。  苦しいっつの……そう思いながら、四ノ宮の肩を押した手は、掴まれて、ベッドに押し付けられた。 「……っん……ふ――――……」  キス、うますぎ。  ――――……ムカつく……。 「しつ、こい――――……」  僅かに顔を逸らしてそう言ったけれど。 「……先輩、キス下手だね」 「……っ」  な。んだとー。 「してこなかったから?」  触れそうな位近くで、そんな風に囁かれる。  ……マジで、むかつくな。 「――――……ちゃんと応えてみてよ」 「……っ」  そんなふざけた事を言いながら。  再び唇が重なって、深く、口づけられる。  ムカつく。ムカつく。ムカつく……。  きっとこいつは、オレを挑発して、キスに応えさせようと、してるんだとは分かってる。  分かってるんだ、けど。  キス下手レッテル貼られたくないとか。  ……馬鹿か、オレ。 「……――――……」  四ノ宮の首に、腕を回して。  若干引いてた、顎を上げて、四ノ宮により密着して――――……。  逃げて捕らわれるだけだった舌を、四ノ宮に自分から、触れ合わせた。  目を開いてオレを見ていた、四ノ宮は。  ふ、と瞳で笑んで。    それから、今まではふざけてただけ、みたいな感じで。  多分、四ノ宮的に本格的に、キス、してきた。 「……ぅ…… …… っン――――……」  うわ。  ――――……自分が応えると、益々……。  キスだけなのに。  頭の中、どんどん白くなって――――……。  なんか――――……ヤバい。 「……ン――――……っ、は……」  つか――――……何でオレ、キスしてんだろ……。  ……キス――――……嫌い、なのに。  和希とする以外のキスなんて――――…… 絶対、したくないのに。   「――――……」  長い、キスが、やっと離れて。  オレの頬に触れてる四ノ宮と、見つめ合う。  ただ、何て言っていいか、分からないから。  無言で、見つめ合うと。  ふ、と。  ――――……嬉しそうに、笑った。 「オレと――――……ちゃんとキス、出来ますよね」  クス、と笑われて。  四ノ宮の指が、オレの唇に、触れる。 「……嫌そうには見えないよ、先輩」 「――――……喜んでないし」 「……そう? ――――……先輩さ、思い込んでるの無くして、今、キスが気持ち良いかどうかだけで考えてよ」 「…………」  ……なんか。思い込んでるの無くしてとか。  …………オレが何を思い込んでると思ってるんだろうと、何となくムッとして、四ノ宮を睨むと。  ふ、と苦笑されて。もう一度、ゆっくり、唇を重ねられた。 「……嫌じゃないよね?」 「――――……嫌じゃなくても…… お前とキスする理由にはならないし」  そう言ったら。四ノ宮は、クッと笑い出して。  不意にオレを抱き締めた。 「っ何なんだよ」 「――――……嫌じゃないって、言ったし。今」 「っ……嫌じゃなくてもって、仮定だし……っっっ」 「……ふうん? ――――……まあ、いいや。寝ていいよ、先輩」 「こんなんで寝れないし。離せよ」 「無理――――……このまま寝てよ」  クスクス笑ったまま、オレを包んで抱き締めて、しかも今は向かい合わせだし。 「オレ離す気無いよ。おやすみ、先輩」  クスクス笑って、四ノ宮は目を伏せる。  ――――……もーなんなの、お前……。    変な奴。  ――――……でもって、オレも。変。  キスも、これも。振り解かない、とか。  意味が分かんない。

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