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第139話「謎度が…」*奏斗

 翌朝。部屋が明るくなって目が覚めたら、四ノ宮は居なかった。  時計を見ると、もう9時近い。ちょっと遅くなっちゃったな。変な時間に目を覚ましたりしたから……。  しかもキスされて。……抱き締められてたせいで、なかなか寝付けなかったから。  ベッドから降りて、部屋を出る。  四ノ宮は、キッチンで食事の支度をしていた。 「……おはよ」 「うわ、びっくりした」  フライパンでジュージュー音を立てて焼いていたせいで、全然気づかなかったらしく。  すぐ背後に立ってから声を出したら、四ノ宮は目を見開いてオレを振り返った。  あは。珍しい、びっくりした顔。  ぷぷ、と笑いながら、四ノ宮を見てると。 「も少し早く声かけて下さいよ」 「ん」  頷きながらもクスクス笑う。 「自然と目が覚めました?」 「うん」 「良く眠れた?」 「……なんか夜中色々あったせいで、寝付けなかったけど」 「色々?」  不思議そうな顔で見られて。  いやいやお前のせいだよ、という目で睨んだら。  ああ、と苦笑して。  急に傾けられた顔が近づいてきて、驚いてる間に、キスされた。 「――――……キスしただけ、でしょ」 「っだけじゃないだろ」  ぐい、と顔を押しのけると、四ノ宮はクスクス笑いながら、フライパンから卵を皿に移した。 「散々色んな人と寝てきた人が、キス位で狼狽えてんの、おかしいでしょ」 「――――……」  そうだけど。  ……でも、オレにとって、寝るより、キスの方が、なんか近いっつーか。  それは、そういう感覚って事でしかないので、四ノ宮には分かんないのかもしれないけど……。 「……分かんないかもしれないけど……」 「うん?」 「――――……30人と寝るのと、30人とキスすんの、どっちが嫌って言われたら、キスのが、やだ」 「――――……なんですか、それ」  ぷっと笑い出して、四ノ宮はオレを見下ろす。  菜箸を皿に置いた、その手が、オレの頬に触れた。 「……じゃあ、キスしないから、オレと寝ましょう」 「――――……っそういうことじゃなくて……」 「……ああ、でも。キス、嫌そうじゃないから。オレとは、キスしながら、寝ましょうね?」 「…………っなんかもう、お前、ほんとに、意味が分かんない。そういうことじゃないよね、今オレが言ってるの……」 「じゃあどういうことですか? 分かりやすいと思いますけど。あんたのがよっぽど意味わかんないですよ」 「…………っ」  オレが意味わかんないの??  「オレ、分かりやすいじゃん……」 「そうですか?」  くす、と笑って、じっと見つめられる。 「……もう恋人とかそういうの嫌だから、都合がいい時だけ、関係持ってるだけ。あとくされなくて、楽だし。でも、キスは好きじゃない。でもって、誰かと続けたくなんか無いから、お前ともしないって。それだけじゃん」 「――――……だから……そこら辺全部が訳が分かんないって言ってんですよ。楽じゃないでしょ、知らない男と寝るリスク、ちゃんと認識してよ。あとくされもないけど、情もないんだよ。キスしたくないのも、そいつの事好きじゃないからでしょ。――――……そんな関係が、楽で楽しいなんて、本当は絶対思ってないでしょ」 「――――……」  何だか急に、ものすごく、まくし立てられて。  ――――……しかもなんか。  何故か言い返せない感じで。  あれ。何でオレ、言い返せないの、これ。  ――――……ちょっとムッとして、口を噤んでいると。 「顔洗ってきたら? ホットサンド仕上げとくから」  そんな風に言われて、微笑まれる。 「――――……」  むむむ。  ……むかつくけど。  どうせ言い返しても、また返されるし。  今頭働かないみたいだし。  ……ホットサンド食べたいし。  黙ったまま、四ノ宮から離れて歩き出すと。 「タオル、新しいのおいてあるから」 「……ありがと」  言うと、またクスクス笑われて。行ってらっしゃいと送り出された。  ――――……四ノ宮のキャラがなんか違う……。  元々どんな奴なのか、謎な奴だったけど。  ますます謎度が増していく。  

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