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第142話「鳥肌」*奏斗

「片づけちゃいますから座っててください」  食後少ししてそう言われたんだけど、一緒にやる、と言って、隣に立つ。  四ノ宮が泡立て洗ってるのをオレが水で流して、トレイに置いていく。  もう何回も、四ノ宮のご飯、食べてるけど。  ほんと。全部美味しいなあ。すごい。  お店に出てくるみたいな、四ノ宮の料理って、すごい気がする。あ、いや、母さんの料理は、慣れ親しんだ味で好きだけど。……と、聞かれてる訳でもないのに、オレは、何となく母さんに言い訳してしまいながら考える。  朝食のホットサンド。なんか色々組み合わせを四ノ宮が言ってて。ほんとに毎日食べれたら、幸せそう。とか。四ノ宮には言わないけど、オレ、相当、あのホットサンド好きみたい。  ――――……友達とか。仲の良い先輩後輩、とか。  それなら。材料費出して、もありだと思うんだけど。隣だし。  ――――……なんか、四ノ宮は、オレにキスしたり。抱く、とか言ったり、なんかすごくよく分からない部分があって。  そういう奴とずっと一緒に過ごすとか。ほんとは、良い気がしない。  ……とかいって、今も一緒に居るけど。  別にオレ、四ノ宮を振り切って帰る事も出来るんだけど。  無理矢理、力ずくで引き止められてる訳じゃないんだから。 「……先輩」 「ん?」 「昼何が食べたい?」 「……ていうか、オレ、いつまでここに居るの?」 「明日の朝まで?」 「……」 「だって夕方クラブ行くんでしょ? オレも行くし。んで、帰ってきたらご飯一緒に食べるでしょ? そのまま泊まれば?」 「……なんかもう、色々突っ込みたいんだけど……とりあえず、クラブは四ノ宮はいいんじゃない? オレが迷惑かけただけだし。謝るのもオレだけで……」 「リクさんに電話したのは、オレが勝手にした事だし。あの2人から先輩を取り返してもらったのだって、オレが頼んだ訳だし。やっぱりオレもお礼言うとこでしょ」 「――――……」  そうなのかな……。……ちょっと特殊な状況すぎて。普通がよく分からないんだけど。   「リクさんが好きなお酒でも買っていこうかと思うから、オレ、ちょっと買い物も行きたいし」 「付き合いますよ」 「……付き合ってくれんの?」 「うん。ていうか別々に持ってくのもおかしいから、一緒に買いますね」 「……ん。分かった」  ……きっとオレが一人でクラブ行くのも嫌なんだろうから、絶対断っても、ついてきそうだよな……と、変な諦めまで湧いてくる。  と、言う事で。夕方から四ノ宮の車でお酒がいっぱい置いてある店に連れていって貰って、そのままクラブに行く事になってしまった。  何かもう、よく分からなくなってきて、ソファに腰かけたら。  窓際に立って、空を見上げていた四ノ宮が、オレを振り返った。 「夕方まで暇ですね。とりあえず昼まで、何します?」 「……もーなんでもいいよー」 「何ですかそれ、投げやり」 「――――……なんかオレ、今、ちゃんと考えられない気がするから、任せる」  オレのセリフに、四ノ宮が、ふーん、と笑う。 「――――……オレのしたいこと、してもいい?」 「……いやだ」  ぞわ。と、鳥肌。 「ち。何で?」 「ちって、何。……何しようとしたの」 「――――……めちゃくちゃキスしようかなーと思ったんですけど」  鳥肌、正解。  もう、何なの。ほんとに、こいつ。 「あのさあ、先輩。ちょっといい加減、本気で話そうよ」 「……っオレ、いつも本気で話してるんだけど……」 「ダメ。もっと本気で」  だから本気だってば……。  オレの隣に腰かけた四ノ宮が、オレをまっすぐに見つめる。  「オレとすんの、何が嫌?」 「……」  あーもー、ほんと……。 「……帰ってもいい?」 「ダメに決まってますよね」 「……ちょっとだけ」 「絶対ダメ。何ですか、ちょっとだけ帰るって」 「うん。……そうだね、何だろ。オレもよく分かんない」  真顔で突っ込まれて、ついつい笑ってしまうと、四ノ宮は呆れたようにオレを見て。でも、少しして、なんか面白そうに、瞳を細める。

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