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第143話「キス」*奏斗
「……先輩、ベッド、行きません? 時間あるし」
「行かない」
「薬、無い状態で、オレと試してよ」
「やだ」
「気持ちよくできなかったらまた考えるから」
「やだ……つか何考えんの」
四ノ宮の、よく分からん要求を、短く拒否ってると。
はー、とため息とともに。四ノ宮が苦笑いを浮かべる。
「やだやだ言っても無理だよ。オレ、諦めないし」
「……何で」
「恋人じゃない奴になんか、抱かせないからね」
「……だから、それ、何でお前が決めるの??」
オレのこの返答って、間違ってるのかなと思う位。
なんで、当たり前のように言ってくるんだろう。
むーと眉をひそめていると、四ノ宮も負けずに目を据わらせて。
「……あんた金曜、オレに無理やり抱かせたんだからね」
「――――……」
ぐ。
――――……そんな事言われたら、何も、言えない。
「オレ、どんだけ、拒否ったと思ってんの」
「…………それ、は――――…… ごめん」
うう。ほんとすみません。
困って言うと、途端に四ノ宮はふ、と笑んで。オレの顎に手をかけて、持ち上げた。
「つか、それはもう良いんですけど」
「……っ」
そのまま、引き寄せられて、触れてしまいそうな位近くで、見つめられる。
「オレが抱けばいいって、思えたし。却って、良かったし」
「ほんと……何、言ってンの……」
顎を離させようと思って、顔を逸らそうとするのだけれど。
「もう、知らない奴のとこ、行かせないし」
顔を戻されて、至近距離で。じっと見つめられて。
何でか――――……ドキ、と、した。
「――――……」
ゆっくり。唇が触れてくる。
じっと、見つめ返したまま、そのキスを受けて。
「……しのみや、あのさ……」
「……」
「――――……オレとシても、四ノ宮に良い事、ないと思うんだけど……」
「……無かったら言ってないですよ」
「……何があんの」
「んー……色々?」
「色々って……」
四ノ宮の手が、うなじに回ったた思ったら、ぐい、と引き寄せられて。
「キスするから――――……どうしてもだめなら、殴っていいよ」
触れる直前に言われて、キスされる。
唇がいきなり深く重なって、舌が、入り込んできた。
「……っや、め……」
離そうと藻掻いた手を取られて押さえられて。離れた唇がまた触れて。
舌を絡め取られる。
「……っ――――……ン、ふ……っ」
……息が、出来ない。また、いきなり、激しい。
昨日の朝。ホテルで、された時、みたいな。
「っ……ん、ンぅ……」
離れようと思うのに。顎押さえられて、ソファの背もたれに押さえつけられて。なんか色々うまく押さえこまれて、動けない。
昨日もそうだったけど。
四ノ宮に、本気で、キスされると。
やっぱり、動けなくなるんだって事を。なんか、再確認してしまう。
「……っン、は――――……」
少し離れて、息を吸うけど、またすぐ塞がれる。
舌が奪われて、吸われて――――……。
何で四ノ宮のキスは、平気なんだろ。
……全然分かんない。
知らない奴じゃないから?
もともと……知ってる奴として、好意があるから?
知ってる奴なら、キス、平気なのかな、オレ。
知らない奴と、キスすんの。あんなに、抵抗あったのに。
和希じゃないと、ダメだと、思ってたのに。
「――――……っ……」
息、ちゃんと吸えなくて、くらくらする。
舌、噛まれたり、なぞられたりしてる内に、息が、上がって。
だからほんと……キス、うまくて……なんか、すごく、むかつく……。
「――――……ン、ぅ……」
昨日から。何度キスしてるんだろ。
――――……オレ。何で、振りほどけないんだろ。
……よく分かんないけど。
これが、嫌がらせとか、嫌なものじゃなくて。
多分、四ノ宮が、オレを、大事にしようとしてくれてる、ような。
全然よく分かんないけど。
……そんな気がするから。
――――……ぶん殴ろうとか。できないんだと思うんだけど。
オレ、だめだな。
基本。 優しい触れ方とか。人肌……。好き、なんだよな……。
でも、これが、良いとは、思えないのに。
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