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第144話「涙」*奏斗
「――――……ふ……」
ゆっくりと舌が解かれて。涙が滲む瞳を、何とか、開く。
くっつきそうな程、至近距離で見つめられて。
「……メリット、あるよ」
そう言われて。顔に、四ノ宮の手が触れて、そのまま首筋をなぞられる。
「――――……っ……?」
くすぐったくて、首を竦めて顔を引くと。
また頬に触れてくる。
「あんたが、そんな顔すんの、見れるじゃん」
「――――……っ……」
「変な奴に、抱かれるの――――……心配しなくていいし」
「……それ――――……メリット、っていう……?」
全然、意味わかんないんだけど……。
四ノ宮を見つめていると。また、頬に触れられて。そのまま、指が、唇に触れる。
「オレとキスすんの、気持ちいいよね?」
「――――……」
キスするのは――――……正直、気持ち、悪くはない、けど。
「……薬なしで、抱かせてよ。――――……無理なら。また考えるから」
「――――……無理って……お前が?」
そう聞くと、何で?と言って、四ノ宮が苦笑いを浮かべる。
「オレは無理じゃない。オレはシラフで抱いたんだから、無理じゃないのは、もう分かってるよ」
「……オレが、無理って事?」
「そう。……どうしても無理なら。また、考える」
そう言って。四ノ宮は、またオレの顎を捕らえて、上向かせた。
「ここで抱かれんのと、ベッドと、どっちがいい?」
――――……その二択しか無いの……。
瞬き、繰り返すしかないオレを。
四ノ宮は、ぐい、と引き寄せて。それから、ぎゅっと抱き締められて。
耳のすぐそばで、囁いた。
「試して……オレにされるのが、良かったら――――……他行かないでよ」
「――――……」
なんかいつもみたいに、からかうみたいな口調はかけらもなくて。なんでこんな意味の分かんない事、こんなに、真剣に。ほんとに、何言ってるんだろうって。――――……思うのに。
何でか。分かんないけど。
「――――……」
――――……涙が、浮かんで。
不意に、零れ落ちた。
え。
あれ。
――――……何で?
思ったその時。鼻を啜ったら、完全に泣いてるみたいな音で。
四ノ宮はすぐ、抱き締めていた腕を解いて、オレの顔を、のぞき込んで。ものすごい、びっくりした顔で、ものすごい、見られた。
「え。何で??」
「――――……っ」
泣いてるとこ、そんなマジマジ見られるとか。恥ずかしくて、俯きながら、握った手で、涙を拭おうとして居たら。四ノ宮が急に立ち上がって、すぐにティッシュを持って、戻ってきた。
ぐい、と涙を拭かれて。
でもまだ浮かぶ涙に、四ノ宮は苦笑い。
「何で、泣いてンの……?」
「……わかんない……」
「――――……嫌で、泣いた?」
オレは、ふ、と顔をあげて、四ノ宮を見つめて。
すぐに、首を横に振った。
嫌だとか。思った訳じゃない。
よく分かんないけど。――――……嫌じゃない。
意味が分からないけど。
男なんか好きじゃないくせに。
女の子にモテモテで、男に手出す必要なんかこれっぼっちもないのに。
ほんとは、男なんか、抱きたくないだろうに。
――――……何でか分かんないけど。多分。
オレの事、大事だと思って、くれてるから。
こんな、意味の分からないこと、言ってくれてるんだろうなと、思って。
そう感じたからなのか……なんかもう、理由は、よく分からないんだけど。
気づいたら、涙が、勝手に零れてた。
「――――……鼻かんで」
四ノ宮は、ぷ、と笑いながら、ティッシュを渡してきて。
鼻を噛んで、息を吸った所で。四ノ宮はそのティッシュを受け取って立ち上がるとゴミ箱に捨てて。それから戻ってきて、オレの腕を引いて立たせた。
「ベッドいこ」
手首を掴まれて、引かれる。
……振り解こうと思えば、振りほどける、その程度の力。
でも、どうしてか。振り解けない。
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