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第148話「子供の頃」*大翔

「先輩、ちょっとさ」 「何」  先輩を反転させて、座ってるオレに寄りかからせる感じで、後ろから、引き寄せる。 「オレの、小学生の頃の話、聞いて?」 「……うん。いーよ」  ちらっとオレの顔を振り返って、こくん、と頷いて、また前を向く。  よりかかったまま。こういう体勢は、そんなに抵抗はされないみたいだ。  ……ちょっと前まで怒ってたのに、この形で、話は普通に聞いてくれるんだなと思うと。何だか笑みが浮かんでしまう。 「小学5年の時にさ。友達に彼女が出来てね。学年で多分一番最初のカップル」 「5年が最初? 遅いね。オレの友達3年で、付き合うーって言ってた」 「早や」  クスクス笑いながら。続ける。 「そしたら友達がオレにさ、お前も告白して、ダブルデートしようとか、言ってきてさ。そそのかされて、ラブレター書いて、下駄箱に入れたんだよね」 「うん」 「ずっと好きでした、とか書いて、学校の校舎の端に来てもらえるように呼び出したんだけどさ。……友達はオレを隠れて見れるとこに居てさ……」 「うん。はは。可愛いね」 「でも皆下校しただろうなって時間になっても来ないから、もしかして気づかず帰ったのかなとか、友達と言いながら、下駄箱、確認に行った訳」 「うん」 「下駄箱に近付いた時、ちょうどその子が友達と話してる声が聞こえてさ。委員会、こんなに遅くなっちゃったねーとか言ってて。オレ達、その子達が居る下駄箱の裏側に隠れたのね」 「ん」 「今からラブレター見るのかって、オレは友達と目配せして、呼び出した場所にそーっと戻ろうと思った時にさ、何これ、て、すごい嫌そうな声がして。それでオレ達ぴたっと止まったんだよね」 「うんうん?」 「手紙を開いて読んでる気配がしてさ。どうしよう、ここで走っていって見つかるのも間抜けだなとか思って、動けないでいたらさ。その子が言ったのがさ……」  先輩は、うん、と頷きながら、オレを振り返る。 「しのみやだって、きも! 何これ。ずっと好きでしたって、しかも校舎の端に来いだって! 人の都合考えろって感じ、ずっと好きとか、マジキモイ!――――……って言われたんだよね」  覚えてるまま、そう言うと。 「え。四ノ宮って、その頃気持ち悪がられてたの??」  かわいそうに……という視線に、「とりあえず聞いて」と苦笑い。   「……オレもだし、一緒に居た友達も、うわーて顔で、固まってるしさ。もうなんか頭真っ白って、こういう事かと、思って」 「……う、ん……」  オレを振り返ってた先輩は、前を向いて。  気の毒そうな感じの頷き声に、オレは笑ってしまいながら続けた。 「そしたらその女の子がさ。こういう風に自分勝手でキモイから、友達居ないんだよねって言ったんだよ」 「うん……?」 「でもオレ、その頃、友達は多かったし。あれ?って、友達とオレ、顔を見合わせて。オレって友達居ないっけ、とかコソコソ言ってたらさ。その子が一緒に居た女の子がさ」 「ん」 「この「しのみや」ってさ、うちのクラスのじゃなくて、隣のクラスの四ノ宮くんじゃないの?って言い出した訳。そしたら、彼女も、え?って言い出して……。友達の子が、名前に『ノ』って入ってるとか。うちのクラスの四宮は、ノって入んないじゃんとか言って。……だから結局、最初は違う方の四宮って思ったらしくてさ。この手紙は、カッコいい方の四ノ宮くんじゃん、って事になってさ」 「……って、もう、そっちの「シノミヤくん」が可哀想じゃん」 「うん。まあ。そうだね……」  まあ確かに。思いながら頷くと。 「……で?どうしたの?」 「オレだって、分かったらさ。どうしよ、行ってこようかなって、急に言い出したの。明るい声でさウキウキし始めて」 「――――……」 「オレ、すぐ二人の前に出てってさ。好きだったはずの子から、手紙を取り返して。「ごめんね、これ、罰ゲームで何の意味も無いから」って、めちゃくちゃ笑顔で言って。……で、すぐ帰ったの。友達と。その後、女の子がどう思ったかとかは、全く知らないけど」 「――――……う、ん……」 「すごい可愛い子でさあ。前のクラスの時に席が隣で、ずっと優しい子だと思ってたんだよね。……全然オレの前と、話し方も、違うし。……手紙を読んだ時は、キモイって言われたし、呼び出した事も自分勝手だって言ったのに」 「――――……」 「同じ手紙なのに、オレが言うなら、キモくないって。なんか違くない? ……何なの、それ。そんなの、全然嬉しくねーし、って思ってさ」 「――――……う、ん……うーん……と…………?」  先輩は何だか困ったように唸ってる。

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