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第149話「そのまんま」*大翔
先輩が何を言いたいか考え込んでるので、オレは続ける事にした。
「……相手によって対応変わるとか。カッコいい方とか。どうでもいいし。マジでそんなのいらないって思ってさ……」
好きだった子の裏側を思い切り見たのは、あの時が初ではあったけど。
……まあでも、それからも、多かれ少なかれ、色々あって。心底面倒になったっけ。
「んー……でもさ?」
「はい?」
「……その話はちょっと……タイミング悪くて聞いちゃったのかもだけどさ……子供だったしショックだったとは思うんだけど」
「――――……」
「そうはいっても、人の態度って、見た目にかなり左右されるよね」
「――――……先輩も左右される?」
「オレはあんまり関係ないかも。あんまり興味ない、カッコいいとか。……でもやっぱりさ、イケメンって奴を皆が喜んで見つめるのは、もう絶対そうじゃん? やっぱり綺麗とかカッコいいとかに憧れたりっていうのは、普通にあるんじゃないかなー……とは思うけど……」
「そうかもだけど……なんかオレの周りって、オレは王子様みたいにいつでもカッコよくて、優しくて、 何でもできてって、決めつけてさ。んで、なんか、イメージ違うって言われてばっかで……」
「――――……」
先輩は、ふ、とオレを振り返って。
それから、ぷ、と笑い出した。
「……あのさぁ……」
先輩は笑いながら、オレを見上げて。
「それ自分で言うなよ。王子で、優しくてなんでもできてカッコいい、とか」
クスクス笑ってるし。
「オレが言ったんじゃないし」
「んー……四ノ宮の周り見てると、確かに皆そう思ってそうには見えるけど……」
「……つか、こんなの先輩にしか、言わないよ。葛城以外では、初めて言った」
「ならいいけど」
楽しそうにクスクス笑いながら、オレを見つめて。
「でも、否定しないで、そのイメージで生きてるから余計なんじゃないの?」
「……第一印象それで見られて、なんか違うって責められるのほんと、ムカつくし」
「ああ……んー……分かるけどさ」
「――――……」
「だからさ。なんか違うって言われても、こっちがオレ、って言ってればいいじゃん? それで離れる奴なんか、最初から、ほんとに仲良しじゃないじゃん? 離れても、良くない?」
「――――……」
まっすぐな瞳でオレを見つめてそう言って、それじゃダメ?と首を傾げてくる。
「オレは……宇宙人で意味わかんないけど、素の方が良いと思うけど。嘘笑いしてる時より」
「……嘘笑い、見破ったの、あんただけだし」
「そうなの? あぁ、でもそっか……皆、綺麗に騙されてるもんね、王子様に」
「……先輩はオレの事王子って思わないの?」
そう聞いたら、先輩は、じっとオレを見て。
また笑いながら、少し視線を逸らした。
「見た目は王子って言われるの分かるけど……中身、宇宙人だし、詐欺師だし、お母さんだし。なんかほんとに意味わかんなくて、全然王子じゃないけど」
聞いてる途中で可笑しくなって、オレも苦笑い。
「オレ、馬鹿宮だしね?」
自らその単語を出して、笑うと。
「そーだよ」
ふ、と先輩が笑って、またオレを見る。
まあ正直、散々色々あったし、世の中見た目で左右されるのも知ってはいるし、その後、中学で初めて付き合った時だって、ほんと、らしくないだの色々言われたし、面倒な事は多々あった。
「もうめんどくせーから、期待に合わせて生きてきてさ。それに慣れてたのに」
「そっちの方が面倒くさいじゃん」
「もうそれを面倒だとも思ってなかったし」
「――――……そうかなあ? 思わないようにしてただけじゃないの?」
……そう言われて、咄嗟に返せず、止まる。
「とにかく――――……今までは、それで良いと、本気で思ってたんだよ」
だって、誰にもバレないし、突っ込まれた事も無いし、オレ自身も、どこからどこが本気か嘘かよく分かんなくなってたし。
葛城にだけたまに愚痴言って、もうそこだけでいいと思ってた。
「――――……何で、あんたは、オレを嘘っぽいって思ったの」
今更だけど、改めてそう聞いたら。
え。と固まって。しばらくオレをじっと見つめて。
「……そんなの、分かんないよ。そう感じただけだし」
「――――……」
「今の四ノ宮は、嘘っぽいって思ってないよ? 他の人の前でも、だんだん、そうしていけば? 素の方が、好かれるかもよ?」
クスクス笑いながらそう言って、話終わりかな、みたいな感じで、オレから体を離して、起き上がった。
ただでさえ、先輩とは、本音で話してて。
――――……その上、オレが抱くとか、他の奴のとこいくなとか、散々意味わかんない事して、意味わかんない事ばかり、言ってる自覚もあるのに。
……それでも、素の方が良いって。
この人が言うのが――――……なんか、すごく嬉しい、というか。
「――――……わ……?」
ぐい、と腕を引いて、今度は、真正面に引き寄せる。
びっくりしてる瞳を見ながら、その唇を塞いだ。
「……っ――――……ン……?」
めちゃくちゃ激しいキスで塞ぐと。
すぐにぎゅ、と瞳を伏せて、オレにの腕のあたり、握り締めた。
なんかよく分かんねーな。
――――……昔から色々あって。面倒になってたのに。
先輩には、こんな昔話までして。
――――……何が言いたかったんだか。
……なんか。知ってほしくなったというか。
オレの事。
「……ん、んー……っっ!」
はなせー、とでも、言ってるのかな。
は、と息継ぎをした所をまた塞ぐと、「んん」と藻掻いてる。
離さずに、藻掻くのが止まるまで、めちゃくちゃキスして。
涙でウルウルしてから、やっと離す。
「……っっおま、え、ほんとやだ……」
涙を親指で拭ってあげながら、 息も絶え絶えに文句言ってる先輩を、ぎゅー、と抱き締めた。もう疲れてるみたいに、抵抗は、無い。
「……オレの事、話すから聞いてよ」
「――――……?」
なんか腕の中で首を傾げて、オレを見上げようとしてくるけど。
顎で何となく押さえて、そのまま。
「……先輩の事も、ちょっとずつ話して」
「――――……」
しばらく無言の先輩は。
「ていうか……お前の話って、一歩間違ったら、自慢話だからな……」
「え?そう?」
「だって、さっきのだって、かっこいい方の四ノ宮くんならって、話じゃん」
「――――……あぁ。えーと……そうかな。オレすっげえ嫌な思い出だけど。だって、まず手紙、全否定されてるからね。キモって言われたし」
「――――……あ、そっか……」
ふ、と腕の中で、笑ってる。
「カッコいいなら許すけど、カッコよくないならキモって。……それってほんとはキモって事だよね? 自分勝手って言われたからね、呼び出したのも」
「――――……んー……まあ。四ノ宮にとって嫌な思い出だっつーのは、分かったけど」
クスクス笑う。
「……ちなみに、オレはさ」
「?」
「……女の子にも見える、可愛いって言われて――――…… 男子と、うぎゃーって遊んでると、そんな事しちゃだめだよ、せっかく可愛いのにーとか。わけわかんない事、言われてきてるよ?」
「――――……はは。何それ」
「……だから。皆、勝手に第一印象とか、持つって事だよ」
クスクス笑う先輩。
「……可愛い自慢じゃないからな。ほんと意味わかんない思い出」
「それ何才位の話?」
「……中学位までは言われてたかな。高校もかな……」
「まあ。今も女装したら、バレなそう」
「うるさい。……オレ、ゲイだけど、女の子になりたい訳じゃないから。嬉しくない」
「……してなんて言ってないよ。そのまんまで――――……」
……そのまんまで?
――――……そのまんまで……。
「そのまんまで、何?」
「……いいと思う」
「……あ、そ」
ふ、と笑ってる。
――――……そのまんまで。
すげえ可愛いから。
て。
言いそうになったけど。
ちょっと、やめておいた。
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