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第152話「嬉しい……?」*奏斗
「奏斗、こっちは?」
「ん……」
なんかすっかり。普通に呼び捨てされてる。
――――……めちゃくちゃ触られたあの後。一緒に昼ご飯を作って、食べて、片づけて。
コーヒー飲んでゆっくりして。
一本、映画を一緒に観た。
タイトルを聞いた事もない、恋愛映画。
学園中の女の子にモテてる男の子を落とすために、普通未満だった女子が、奮闘して、可愛くなっていって、好きになってもらおうと、めっちゃくちゃ元気に頑張る、ラブコメもの。まあ半分ギャグみたいな。
何も考えずに、可愛いなーって、思える映画で良かった。
けど。――――……最初は離れて座ってたのに、四ノ宮に引っ張られて、また、膝の間に座らされた。
……よくわかんね。
オレの定位置を、四ノ宮に寄りかからせる所、にしようとしてんのかな。
――――……何がしたいのか、よく分かんない。
オレも。どうして、もっと強く、嫌だって、言わないのか。
……分かんないことばっか。
「奏斗?」
「……え。あ。ごめん。何?」
驚いて、四ノ宮を見上げたら、四ノ宮は、クスクス笑って。
「白だと、ここらへんが美味しそうかなって聞いてたんだけど」
四ノ宮が指さすワインに視線を向ける。
「うん……」
映画を見た後、リクさんに渡すお酒を買いに、大きい酒屋に来ていた。
クラブではリクさんはお酒を飲まないので、どんなお酒が好きなんですか、とか話した事があって。白ワインが好き、と言ってたから、それを吟味中、だった。
「オレ、あんまり白ワイン飲まないから……どっちかなあ」
「じゃ店の人に聞いてきますね」
そう言うと、四ノ宮はさっと歩いて行って、店員の女の人に話しかけてる。
――――……なんか。ああやって。知らない人と話してるあいつは。
やっぱりオレと話してる時とは、違う。
王子ね。
……ま、分かる。
顔がね。整いすぎなんだよな。
育ち良さそう、って、思うし。がさつな感じとかは一切ない。
なんか綺麗な部屋に住んで、何不自由なく暮らしてるんだろうなーと、感じるっていうか。まあ実際、部屋見ても、そのまんまのイメージだけど。
まあ。「王子」って言いたくなる気持ちも、分かるけど。
四ノ宮が店員と話しながら戻ってきて、あれやこれやと説明を聞いてる。
オレもそれを聞きながら、ワインを眺めていて。
四ノ宮が礼を言うと、店員は超笑顔で、離れて行った。
「んー。どうしよっか。こっちか、こっち辺り? ちょっと高いの一本のが良い?」
「うん」
「じゃあこっちね?」
「ん」
二人でお金出し合って、会計をして、簡単にプレゼント用に包んで貰っている間。
じっと、四ノ宮を見つめる。
「ん?」
「ほんと、何か……」
「うん?」
「……お前、オレのそういうのに、関わんない方がいいと思うんだけど」
「――――……何それ」
しばし沈黙の後。四ノ宮が、クスッと笑う。
「オレ、もう、すっげー深く、あんたと関わってんだけど」
「――――……」
す。っげえ、深く、って……。
めちゃくちゃ意味深な言い方で、囁かれて、固まっていると。
あたりを一瞬見回した四ノ宮が。
オレの背筋から腰に、す、と指を這わせた。
もう、瞬間的に、びく!!と震えたら。
「……どーなるかも、かなり知ってんのに。今更すぎ」
クスクス笑われて。また囁かれて。
ビクついた自分も恥ずかしいし、
四ノ宮のセリフの意味考えても恥ずかしいし、
なんかすげームカつくし。
色んな意味で顔が熱くなって。
「……ほんとに嫌だ、お前」
言うと、四ノ宮は、ふ、と笑って、オレを斜めに見下ろして。
「……奏斗がオレを、嫌いじゃないだろうってのは、分かってるし」
「……っもー、奏斗、呼ぶな」
「今日一日呼んでいいっつったじゃん。慣らす為に、今ひたすらめちゃくちゃ呼んでんだから、慣れてよ」
ひたすらめちゃくちゃ呼んでるって……。
「……無理だったら、今日でやめるんだからな」
「慣れてもらうし。奏斗奏斗奏斗奏斗」
「……っっなんなんだよ、お前」
こそこそと喧嘩をしていると、店員が、「お待たせしましたー」とすごい笑顔で近づいてきた。
「ありがとう」
と。店員の女の子に、無駄な愛想を振りまいて、またしても、超笑顔で、送り出される。
歩きだしながら。
ちら、と四ノ宮を見上げる。
「――――……愛想笑い、ほんと威力あるよな」
「ん?」
「……簡単に虜にできるよな、四ノ宮。ホストとかになったら、すごそう」
「今度はホストときたか……。天職だったりするかな?」
「……もうテレビで取り上げられる位有名になりそう」
「んー。……でもそれ、オレは、すっげー疲れそう」
「――――……」
「……あんたと話し始めて、素で話すの楽だなって今は思ってるからさ。あんたと話す前のオレなら、何も考えずに、出来たかもね」
「――――……」
なんか、そんな風に言われると。
――――……よく分からないけど。
なんか少し。
嬉しいような気が。するような、しないような。
……しないかな。うん。
――――……。
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