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第153話「アホなせい」*奏斗

「ユキくん」  クラブについて顔を見せると、リクさんは、ほっとしたように笑った。 「元気そうだね。良かった」 「あの……ほんとに、ご迷惑かけました!」  頭を下げて謝ると、いいよいいよと、リクさんは笑う。 「大した事はしてないよ。四ノ宮くんに言われるままに、ユキくんを引き留めただけだし」  四ノ宮ってば、リクさんに四ノ宮くんて呼ばれてる……。  変なの……。 「本当に、ありがとうございました」  四ノ宮が、深々とお辞儀をしている。オレなんかよりよっぽどちゃんとお礼を言ってる感じ。思わず、一緒にもう一度頭を下げてしまった。 「先輩、これ」  四ノ宮が持っててくれたお酒をオレに渡してきたので、リクさんに差し出す。 「オレ達二人から。お礼というか、お詫びというか……」  オレが言うと、リクさんは、クスクス笑った。 「店としても、許せることじゃなかったしね。何もいらないのに」 「でも、本当に助かったので」  四ノ宮が、リクさんをまっすぐ見つめながらそう言うと。  やっとリクさんは、ありがと、と、受け取ってくれた。 「何買ってくれたの?」 「白ワインです。好きって言ってましたよね?」 「うん。好き。ありがとうね。じゃあ、お礼に何か奢るよ。何飲みたい?」 「え」 「遠慮しないで。何でもいいよ」  多分、引いてはくれなそうなので、四ノ宮と顔を見合わせつつ。 「じゃあ、アイスティー、お願いします」 「四ノ宮くんは?」 「じゃ同じので」 「了解」  リクさんが、カウンターに一度戻って行ってから、四ノ宮は、ふとオレを見た。 「奏斗、アイスティー好き?」 「ん? うん。好き」 「ふーん」  ふ、と微笑む。  ……よく分からん。  首を傾げていると、リクさんがアイスティーを持ってきてくれた。 「はい。どーぞ」 「ありがとうございます」  受け取って、空いてた丸いテーブルに、アイスティーを置いた。 「あ、ユキくんさ、カウンターのあの子のとこ行って、摘まむもの選んできて? 今頼んできたから」 「ありがとうございます、リクさん」 「うん」  ひらひら手を振られて、オレはカウンターの店員さんの所に向かった。目の前に立つと、そこに居た男の子が、にこ、と笑ってくる。 「どれがいいです?」  メニューを渡されて、聞かれる。 「このスナックみたいなのを」 「はい。少しお待ちください」  彼は笑顔で言うと、用意をしに少し離れていった。  ふと、後ろを振り返ると、四ノ宮とリクさんが何か話してる。  ……へんなの。あの二人が話してるとか。  だって。オレがゲイなの知ってて、色々助けてくれてる人と。  ついこないだまで、ちょっと得体のしれない後輩だった、四ノ宮。  何でそこの二人が話してるんだ。  ――――……って。オレがアホなせいだったー。  ……はー。  急に、再三めちゃくちゃ反省して、カウンターに腕をついて、はー、とため息をついていると。  さっきの男の子が、戻ってきて。オレを見て。クスッと笑った。 「……?」  オレ、そんな、人から見て笑われる位、変なカッコしてる?  思わず首を傾げてしまうと。 「あ、すみません」  と謝られてしまった。 「オレ、一昨日もここに居たんですよ」 「あ。……あぁ。ご迷惑おかけしました」  一昨日の醜態を見てるから笑われちゃったのかな?   思わず謝ると、彼は首を振って、にっこり笑う。 「あ、全然オレには迷惑かかってないんで……。一昨日なんですけどね。リクさんも、後からきたお兄さんも、ものすごい焦ってたなーと思って。きっと、ぐっすり寝てたから知らないのかなと思ったらつい。すみません」  何だかクスクス笑ってる。 「――――……」  焦ってたのか。  ……そういえば、四ノ宮も、そんなような事は言っていたような……。

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