152 / 542

第155話「もともと」*奏斗

 自分に飛んできてる視線はいーのかな。  そんな風に思って。 「……四ノ宮のこと見てる子達は? いーの?」  そう言うと。「は?」と、また不機嫌。 「……オレが今、あんた置いて、そっちに行くと思ってんの? で? あんたは誰かとまた、行く訳?」  うわー……。  今度は、めちゃくちゃ分かりやすく、不機嫌になった。 「行かないから。……なんでそんな急に怒んの」 「何でって――――……はーもう……」  大きなため息ついた四ノ宮は、また手にスナックを持つと。 「ん」  と言いながら、また、オレの口の前に出してくる。  だからー、あーんしてるみたいで、目立つ……。  みたいじゃなくて、そのまんま、あーん、か……。  思いながらも。  もうなんか諦めてるオレは、口少し開けてしまう。  ふ、と笑んだ四ノ宮の顔が目に入りながら。食べさせられて。  ちょっとため息。 「……四ノ宮、オレ、彼女じゃないかんね」 「分かってるけど。奏斗、女じゃないじゃん。彼女じゃないでしょ」 「……そういう事じゃなくて」 「言っとくけど、オレ、彼女にこんな事した事ないけど」 「……」  そういう事でも無くて。  ――――……自分が何を言いたいんだかも、よく分からなくなってくる。 「早く帰ろ。はい飲んで、食べて」  次々言われる言葉に、はいはい、と頷きながら。  もう、意味の分からない、変な後輩が。  超超目立ってるのを横目に、アイスティーを流し込んだ。 「あのさ、奏斗」 「ん?」  ……完璧に、スムーズに、奏斗って呼ばれてるけど。  ――――……そっちも気になりながら。  急にトーンを落とした四ノ宮に、首を傾げてしまうと。 「あんまりすぐに、見ないでね」 「え?」 「見てない振りで、ゆっくり見回す感じで見て」 「……うん。何を?」 「――――……奏斗の右後ろの辺りに居る、黒のシャツ着た男、知ってる奴?」 「――――……」  すぐ見たい気もしたけど、言われた通り少し時間を置いてから。  何気なく、周囲を見る感じで、視線を止める事なく、確認。  ――――……あ。  視線を前に戻して、スナックとは違う皿に乗ってた、ナッツを口にする。 「……うん、知ってる」 「――――……ヤったことある?」 「……ある」 「――――……一回だけって、言ってある?」 「ある。……全員に言ってる」  四ノ宮はオレを見て、ふーん、と頷く。 「徹底してんね。まあそれはある意味いいのか……でも、そう思って無さそうな感じだけど」 「――――……うん」  言った方が良いのかなあ。  金曜の夜に、トイレでちょっと迫られた人って。  ……でも別に。ここからしばらくここに来ないなら。  ……四ノ宮には関係ないよな。  …………なんか。  今ですら、なんか、ちょっと不機嫌になってんのに。  言わない方がいいよな。 「……なんか、よく分かんねえけど」 「ん?」 「……実際相手した奴とか見ると――――……」 「?」 「……ナニコレ。すげームカつくんだけど」 「――――……」 「何でだろ。これ。今更」  うーん。普通ならそういうのって。嫉妬かなーと。  ……妬いてるのかなと思うけど。  四ノ宮はオレを好きな訳じゃないだろうし。  ……だって、オレに恋人出来たら渡すって言ってたし。 「……もともと四ノ宮はやる事とか、言う事とか、全部よく分かんないから」  オレがそう言うと。  四ノ宮はオレをじっと見て。 「……その言葉、そっくりそのまま返していい?」  そんな事言いながら、クスクス笑ってる。  なんか、ムッとして、四ノ宮をちょっと睨むと。 「――――……睨んでも、可愛いけど」  ふ、と優しく笑んで。  オレの頭、撫で撫でしてくる。  あんまり甘い感じのセリフと仕草に、ぽかん、としてると。 「……視線がすげえムカつくから。これで排除できるかなと思って」  こそこそと、囁かれる。  この囁き方だって、絶対わざと、妖しくしてる。  お前を見てる女の子達が、何やらキャーキャー言ってるし。  ほんとに意味が分からない。

ともだちにシェアしよう!