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第155話「もともと」*奏斗
自分に飛んできてる視線はいーのかな。
そんな風に思って。
「……四ノ宮のこと見てる子達は? いーの?」
そう言うと。「は?」と、また不機嫌。
「……オレが今、あんた置いて、そっちに行くと思ってんの? で? あんたは誰かとまた、行く訳?」
うわー……。
今度は、めちゃくちゃ分かりやすく、不機嫌になった。
「行かないから。……なんでそんな急に怒んの」
「何でって――――……はーもう……」
大きなため息ついた四ノ宮は、また手にスナックを持つと。
「ん」
と言いながら、また、オレの口の前に出してくる。
だからー、あーんしてるみたいで、目立つ……。
みたいじゃなくて、そのまんま、あーん、か……。
思いながらも。
もうなんか諦めてるオレは、口少し開けてしまう。
ふ、と笑んだ四ノ宮の顔が目に入りながら。食べさせられて。
ちょっとため息。
「……四ノ宮、オレ、彼女じゃないかんね」
「分かってるけど。奏斗、女じゃないじゃん。彼女じゃないでしょ」
「……そういう事じゃなくて」
「言っとくけど、オレ、彼女にこんな事した事ないけど」
「……」
そういう事でも無くて。
――――……自分が何を言いたいんだかも、よく分からなくなってくる。
「早く帰ろ。はい飲んで、食べて」
次々言われる言葉に、はいはい、と頷きながら。
もう、意味の分からない、変な後輩が。
超超目立ってるのを横目に、アイスティーを流し込んだ。
「あのさ、奏斗」
「ん?」
……完璧に、スムーズに、奏斗って呼ばれてるけど。
――――……そっちも気になりながら。
急にトーンを落とした四ノ宮に、首を傾げてしまうと。
「あんまりすぐに、見ないでね」
「え?」
「見てない振りで、ゆっくり見回す感じで見て」
「……うん。何を?」
「――――……奏斗の右後ろの辺りに居る、黒のシャツ着た男、知ってる奴?」
「――――……」
すぐ見たい気もしたけど、言われた通り少し時間を置いてから。
何気なく、周囲を見る感じで、視線を止める事なく、確認。
――――……あ。
視線を前に戻して、スナックとは違う皿に乗ってた、ナッツを口にする。
「……うん、知ってる」
「――――……ヤったことある?」
「……ある」
「――――……一回だけって、言ってある?」
「ある。……全員に言ってる」
四ノ宮はオレを見て、ふーん、と頷く。
「徹底してんね。まあそれはある意味いいのか……でも、そう思って無さそうな感じだけど」
「――――……うん」
言った方が良いのかなあ。
金曜の夜に、トイレでちょっと迫られた人って。
……でも別に。ここからしばらくここに来ないなら。
……四ノ宮には関係ないよな。
…………なんか。
今ですら、なんか、ちょっと不機嫌になってんのに。
言わない方がいいよな。
「……なんか、よく分かんねえけど」
「ん?」
「……実際相手した奴とか見ると――――……」
「?」
「……ナニコレ。すげームカつくんだけど」
「――――……」
「何でだろ。これ。今更」
うーん。普通ならそういうのって。嫉妬かなーと。
……妬いてるのかなと思うけど。
四ノ宮はオレを好きな訳じゃないだろうし。
……だって、オレに恋人出来たら渡すって言ってたし。
「……もともと四ノ宮はやる事とか、言う事とか、全部よく分かんないから」
オレがそう言うと。
四ノ宮はオレをじっと見て。
「……その言葉、そっくりそのまま返していい?」
そんな事言いながら、クスクス笑ってる。
なんか、ムッとして、四ノ宮をちょっと睨むと。
「――――……睨んでも、可愛いけど」
ふ、と優しく笑んで。
オレの頭、撫で撫でしてくる。
あんまり甘い感じのセリフと仕草に、ぽかん、としてると。
「……視線がすげえムカつくから。これで排除できるかなと思って」
こそこそと、囁かれる。
この囁き方だって、絶対わざと、妖しくしてる。
お前を見てる女の子達が、何やらキャーキャー言ってるし。
ほんとに意味が分からない。
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