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第156話「なぜか」*奏斗

 もう、四ノ宮恥ずかしいから、ほんと早く帰ろう。  そう思いながらパクパク食べて、飲んでいると。 「な、奏斗」 「……?」 「――――……あいつ、よかった?」  唐突な質問に、首を傾げる。 「あいつ? よかった、って??」  そう問うと。 「シたんだろ。よかった?」 「……っ」  食べてた物がつかえそうになる。 「……お前、バカ、なの?」 「何でバカ? ――――……いいじゃん、教えてよ」 「……っ」  じっと、見つめられる。  ――――……目力。ありすぎなんだよ。ムカつく。  黙ってると。 「オレとすんのと、どっちがよかった?」  ――――……ほんと、こういうとこ、ムカつくなあ、もう。  ……お前にされる時、オレが訳わかんない位すごく善がっちゃってるの、知ってるくせに。そりゃ誰かと比べたりは出来ないだろうけど、知ってるくせに。  お前のが良いって、言わせたいのか。  ……ムカつく。 「……むこうのが良かった」  オレがそう言うと。四ノ宮の眉が寄った。 「は? ……嘘でしょ?」  四ノ宮がそう言って、オレをじっと見つめてくる。  ……見つめるというか。ちょっと睨まれてる。  だって、向こうは、そーいうこと聞いてこないし。  四ノ宮、ムカつく。  ムカつきながら、ナッツをぽりぽりしていると。  四ノ宮が、大げさにため息を付いてる。  ……ていうか。  嘘だし。嘘。  ……あの人、一昨日ちょっと怖かったし。もはや、良かったとか、そんなのは消え果てる。  それにオレ、多分、和希以外と今までした中で、四ノ宮とが一番訳分かんなくなってると思う。  そもそも、キスが嫌じゃないとか。  自分でも、正直意味がわからないけど。  でも。四ノ宮の、こういうの言わせる感じは、好きじゃない。 「……なに、オレ、あいつに負けてるの?」  ……何でも自分が一番とか、思うなよ。ムカつくんだよ。  心の中で呟く。 「……そーなんだ」  あ。……ちょっと落ち込んでる?  どうしよ、言おうかな。 「……まあ。いいや。――――……早く帰ろ?」 「――――……」 「ご飯どーする? もう良い時間だし、食べて帰る?」 「……うん」  すぐ笑みを浮かべて、普通に言われて。  ……ん、と頷く。  何だ、全然気にしないのか。ていうか、自信あるから、気にしないんだろうなと思うと、またムカつく気がするけど。  リクさんにもう一度お礼を言って別れを告げた。  オレを見てた気がする例の人とは目を合わせず、四ノ宮と一緒に店を出た。 「奏斗、何食べたい?」 「さっき、カレー屋さん通ったよね」 「通った。ナン食べ放題って書いてあったとこ?」 「食べ放題だった?」 「そう書いてあった」 「行きたい」  そう言うと、四ノ宮は、ふ、と笑ってオレを見下ろす。 「良いよ。行きましょ」  ん、と頷いて、並んで歩き出す。   「――――……ほんとに、あそこ、一人で行かないでよ?」 「……?」 「奏斗、すげー見られてるし。特に一人。あいつオレが居なかったら絶対来てるから」 「――――……しばらく行かないって」 「……行こうかなってなったら、オレに言ってよ」 「……約束はしないけど」 「奏斗」  咎めるように言われて、む、として見上げる。  つか、呼び捨てで、凄むなー! 「……もー、だからしばらく行かないから、いいじゃん」  そう言うと、四ノ宮はため息をつきつつ。 「勝手に行ったら、お仕置きだから」 「……お仕置き?」 「そう」 「何、お仕置きって」  引きながら、四ノ宮を見上げると。 「さあ。別に今は何も考えてないけど、そん時はなんか考える」  ニヤ、と笑う四ノ宮が怖いので。  ……行くにしても絶対内緒で行ってやる。と思うんだけど。  ――――……なんか。  なぜか。  あんまり今、  行こうかなとは。  思ってはないけど。

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