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第157話「ひっかかる」*奏斗
「四ノ宮、何にする?」
「オレ、チキンとほうれん草のカレー」
「このバターチキンってやつ??」
「そう」
「決めるの早い」
「……ていうかもう5分位悩んでるけどね」
クスクス笑いながら、四ノ宮が水を飲んでる。
「だって、なんかどれも美味しそうで。豆カレーていうの食べてみたいけど、ココナッツチキンていうのも食べてみたいし、バターチキンも気になるし。キーマカレーも食べたいなあ……」
「ていうか、まだ4つにしか絞れてないんですか?」
今度はちょっと呆れたように苦笑いされる。
「だって、ここ、クラブ来ても通らない道だし。来ないかもだし」
お店の人に聞こえないようにいって、むむむ、と考えていると。
「別にいつでも車出しても良いけどね……」
クスクス笑いながら四ノ宮がメニューを身を乗り出して、メニューを覗き込んできた。
「味見したいなっていう程度のはどれ?」
「豆と……バターチキンかなあ」
「じゃあさ、このハーフ&ハーフって奴にします? オレ、バターチキンと豆頼むから、奏斗は、残り二つたべれば?」
「え。豆いいの?」
「別になんでもいいし。そんな好き嫌いもないし」
「四ノ宮が、バターチキンが半分になってもいいなら」
「いいよ」
ぷ、と可笑しそうに笑って、四ノ宮が手を上げて店員さんを呼ぶ。
「奏斗、飲み物は?」
「ラッシーがいい」
ちゃきちゃき頼んでくれちゃって、メニューをしまってる四ノ宮に、ラッシー好きなの?と、笑われる。
「うん。こういうインドとかのカレーやさんに来ると、頼む」
「甘いよね」
「うん。好き」
「そっか」
ふ、と笑われて。
「四ノ宮は何頼んだの」
「アイスコーヒー」
「なんかコーヒー好きだよなー。しかもブラックばっかり。胃、悪くしそう」
そう言うと。
「奏斗は、胃、悪くしなそうだよね。カフェオレとか、ミルクティとか。甘いの入れて飲むし。――――……ていうか、それで何でそんなに、細いのか不思議だけど」
「…………」
オレは、むっと、四ノ宮を睨む。
「……何?」
くす、と笑われる。
「細いとか普通の声で言うなよ」
コソコソ言うと。
「何で?」
「オレの裸見たって言ってるみたいじゃん」
耳を寄せて、聞いてた四ノ宮はますます可笑しそうで。
「ぱっと見、太ってないって言ってるんじゃん。考えすぎ」
「――――……っっ」
なんかそう言われると、そんな気もして、ちょっと恥ずかしい。
そっか。これって、普通の会話??
「抱いたら細すぎたとか言ったら、そういう意味で聞くかもだけど」
クスクス笑われて、こそこそ囁かれて。なんだか色々思い出して、かあっと顔が熱くなる。
オレは眉を寄せて、四ノ宮を睨む。
「オレの言葉より奏斗のそういう顔のが、アヤしいと思うけどね……」
クスクス笑われ、本当、ムカつく……。
「あ、でも。奏斗、細いけど、抱き心地、良いよ?」
にっこり笑われて。
「~~~っ……もう黙ってて、お前」
ちょうど運ばれてきたサラダを、もぐもぐ食べ始める。
「……つか、マジで、もー誰にも触られないでほしいんだけど」
「――――……」
なんかもう、オレは、四ノ宮のそのセリフに、何か怒ってたのも忘れて。
「……ほんとに何、言ってんの? 四ノ宮……」
「何言ってんのって。……本気で思ってる事、言ってるんだけど」
言いながら、四ノ宮もフォークを手にして、サラダを食べ始める。
本気で。
…………本気で??
「……お前って、オレに恋人出来たら――――……」
「ん?」
「――――……」
「なに? 作る気になった?」
ん?と見つめてくる四ノ宮に、オレは、少し黙って。
それから、首を振った。
――――……オレに恋人出来たら、引き渡して、下がるんだろ?
と言いかけたけど。
……結局、何が聞きたいのか、よく分からない質問になりそうだったから、やめた。
やっぱりそれまでの間とか。
よく分かんないし。
――――……やっぱり、四ノ宮に触られるの。
もう断固拒否で行こう……。
「……四ノ宮」
「ん?」
「やっぱり名前呼びやめて」
「え? 何で?」
「……やっぱりやだから」
「――――……一日は、オッケイでしょ?」
「…………」
「とりあえずあと数時間は、呼ぶ」
そこにカレーが運ばれてきて。
完全に話は中断。
美味しいカレーの時間になった。
何かがひっかかるけど。
よく分からないまま。
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