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第158話「どうせ」*奏斗

 カレーを食べて、四ノ宮の車でマンションに帰って来た。  部屋の階に着いて、ふと思ったのは。  オレって、どっちに帰るんだろう、て事。  ……って、そんなの考える事自体、ちょっとおかしいのは分かってるんだけど。当たり前に自分ちなはずなんだけど。  四ノ宮の言葉の端々に、今日も泊まれば的な発言があるので、なんか、ちょっと迷ってしまう。  部屋に少しずつ近づきながら、四ノ宮が自分の部屋の鍵を取り出してるのを横目にしながら。  オレが、自分の家の鍵出したら。なんか言うのかな。  つか。オレ。  ……一体、何を気にしてるんだろう。  オレの帰る所はオレの家なんだから、四ノ宮に何言われたって、そっちに帰れば良い訳で……。  ――――……そうだ。自分ちに、帰ろう。  そう思って、オレも、鞄から鍵を取り出した。  ふ、と四ノ宮がこっちを見た気がして。何か言われるかなと思ったけど。  特に何も言わなかった。  部屋の前について、四ノ宮が自分の部屋の鍵を開ける。  オレも同じように、鍵を挿しこむと。 「――――……帰んの? そっち」  そう言われて。  四ノ宮の顔を見ると。特に何の感情も無さそうな。普通の顔でそう聞いてきて。 「うん。……明日学校だし」 「……ふぅん」  そう言いながら、四ノ宮はオレを見つめてる。 「……まあ今帰ってきて、クラブも行かないだろうし――――……」 「――――……」 「……帰りたいなら良いけど」 「――――……」  別に。  ……四ノ宮に良いとか、悪いとか、言われる事じゃない。  ……金曜からずっと一緒で。一人に……なりたいし。  でも、ダメだって言われたら、断るのも面倒くさいし。  だから、良いって、言われたんだから――――……。  ここは、喜んで、自分の家に帰れば良いところだ。……よね? 「……ありがと、色々」  そう言って、何だか、よく分からない気持ちのまま、ドアを開けようとしたら。 「奏斗」 「――――……」 「奏斗って呼ぶ時間――――……あと、3時間位。あるんだけど」 「――――……」 「……もう呼ばれたくない?」 「――――……」  意味が分かんない。  呼ばれたくないって、ずっとオレ、言ってるじゃん。  なんで改めて、聞くんだよ。 「……オレ、帰ったらすぐシャワー浴びる。で……アイスティーいれようかなーと、思ってるけど。もう飲んだから、要らない?」 「――――……」  四ノ宮は、なんだか次々と、色々聞いてきて、勝手に、オレの答えも聞かずに進んでいく。 「奏斗もシャワー浴びてさ」 「――――……」 「来ていいからね?」  四ノ宮のセリフに、少し黙ってから。 「……行かないし」  そう、答えたのに。 「オレは待ってるけど」  くす、と笑って、四ノ宮はオレをじっと見つめる。 「……今日、はもう、行かない。――――……おやすみ」  何とかそう言うと。四ノ宮は、少しだけ首を傾げてオレを見て。ん、と頷いた。  オレは、ドアを開けて、中に入って。  鍵を閉めた。  少しして、隣も、ドアが閉まる音。  ――――……何。  奏斗って呼ぶ時間とか。呼ばれたくないか、とか。  呼ばれたくないって言ってるじゃん。  ――――……アイスティーとか……。コーヒー好きなくせに。    ……クラブに行かないだろうから、帰っていい、とか。  何それ。  ……クラブに行かないように見張るために、居るの?  つか、意味わかんない。  オレが他の奴と寝るのを、極端に嫌がってるのは分かる。  他の奴のとこにオレが行くなら、自分がしても良いってなる位に。   何で、そうなんの?  恋人が出来たら、引き下がるとかいうくせに、  おじいちゃんになっても、付き合うとか。  ……適当なことばっか、言って。   「――――……」  って落ち着け。  オレ、今、考えてる事、全部おかしい。  どうでもいい。  オレは、一人で生きてく。って言ったって、別に孤独で生きてくとか言ってるんじゃないし。周りの人とはうまくやってるし。皆と遊ぶのも楽しいし、何も問題ない。  抱かれたい時だけ、良さそうな奴、選ぶ。  それで良かった。今だって、変わってない。  なんかオレ。よくわかんないけど。  ――――……すごい、かき乱されてるけど。  なんか。  ――――……なんだろう。これ。  どうせ、居なくなるのに。  ……なんか、あったかいのだけ、よこすの。  ほんと、むりなんだけど――――……。  自分で断って、帰ってきたのに。    なんでこんなに。泣きたい気分なんだろ、オレ。  

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