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第160話「オレの馬鹿」*奏斗
風呂を出て。
水を飲んでしばらく、ぼー、と立ち尽くして。
――――……なんか飲もう。
さっきアイスティー飲んだし。……コーヒー、淹れようかな。
そう思って、コーヒーを淹れる準備を始める。
豆を挽いて、フィルターに置いて。お湯を少しずつ、落としていく。
……ほんと。いい匂い。
何も考えず。少し、無心になれる。
その時。スマホがテーブルの上で震えた。振動が長いから、着信。
立ち上がって、画面を覗くと。……何となくそうかなと思ってたけど。四ノ宮だった。
――――……どうしよ。気づかなかった事に、しちゃおうかな……。
意味不明に、そんな事を思う。
しばらく、すごい葛藤しながら、振動を見つめて。
出ようかなと思って手を伸ばした瞬間、切れた。
「――――……」
コーヒーの所に戻って、また、お湯を注ぐ。
なんか。
――――……変な、気分。
コーヒーがぽとぽと落ちていくのを、じっと見つめていると。
また、スマホが揺れ始めた。
――――……また、四ノ宮だった。
何回か、聞いてから。
「……もしもし」
仕方なく、電話に出ると。
『あ、奏斗? 今へーき?』
四ノ宮は、全然普通の声で、言った。
――――……そう、だよね。
別に。オレは、オレの部屋に帰っただけで。
勝手に待ってるって言ってたけど、別に行かなくたって、四ノ宮は困らないし。……全然、普通なのは、そうなんだよな。うん。
じゃあオレも、普通に、普通の先輩として、居ればいいんだよな。
一瞬でそんな事を考えた。
「うん、平気。何?」
普通に答える。
『あのさあ。アイスティーってどーやって入れんの?』
「え?」
『そーいや入れた事なくて。葛城が置いてった紅茶の葉っぱとか、ティーバッグはあるんだけど』
「――――……」
『しかもアイスティーってどーすんの、氷入れればオッケイ?』
「――――……知らないのに、入れて待ってるとか言ったの?」
『だって別に普通に入れればいいんだと思ったからさ、でもどーせ入れるなら美味しい方がいいじゃん』
「――――……ネットで調べれば? 出てくるよ」
ため息を付きながら、そう言ったら。
『奏斗が美味しいってやり方で作る』
「――――……」
――――……何だか。
何も言えなくなって、黙っていると。
『別に今日来てくれなくてもいーけど、今度の為に教えてよ』
「――――……」
『奏斗、好きなんだろ? 覚えるから』
――――……四ノ宮って、ほんと……。
意味、分かんない。
思いながら、コーヒーにお湯をまた落とす。
『今日美味しかったら、飲みに来て』
「……電話で教えるの、めんどい」
『いいじゃん、手順だけ教えてくれたらできるし』
「――――……オレ、今……」
『ん?』
――――……待って。オレ、何言おうとして……。
ちょっと、待てよ……。
「紅茶は、また今度教える。――――……オレ今、コーヒー淹れてる、よ」
『――――……』
「……飲む?」
四ノ宮は、少し、黙った後。
『ていうか、オレの分、あるの?』
「……オレいつも、多目に淹れるって、前も言ったじゃん」
『――――……ふうん』
くす、と笑って。四ノ宮はしばらく黙ってる。
「あ、飲みたくないなら良いよ。またね」
そう言って切ろうとしたら。奏斗、と呼ばれた。
スマホを耳に当て直すと。
『泊まっていいなら、行く』
「――――……」
『もー遅いし。そのまま泊まっていいなら行く』
……何言ってんのか分からない。四ノ宮。
「隣じゃん。すぐ帰れるじゃん」
『帰れるけど、コーヒー飲んで、そのまま一緒に寝たっていいじゃん』
「なんで一緒に寝るんだよ」
『寝たいからに決まってるでしょ』
「……もうめんどい。じゃあ、もう、来なくていい」
ぶち。と電話を切る。
すぐかかってくるけど。無視する。
つか、オレの馬鹿。
……なに誘ってんだ、もう。
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