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第163話◇「猫じゃない」*奏斗
猫みたい。
そう言われて、固まってしまった。
――――……和希も、よく言ってた。
カナは猫みたいだよなあ。
スリスリ近寄ってきて。撫でると、気持ち良さそうで。
すげー可愛い、って……よく言ってたっけ。
胸が、痛い。
いまだに、楽しくて幸せだった頃の事を思い出すと、涙が出そうになる。
あんなに可愛いって。好きって言ってくれてたのに。
でも……別れる時なんてそんなものだろうと、分かってはいるのに。
「奏斗?」
四ノ宮は、オレが黙った事が気になったのか、顔を覗き込んできた。
思考が今に引き戻される。
「……つか、オレ、猫じゃないし。変なこと言うなよ」
なるべく普通にそう答えた。
四ノ宮は何も言わなかったけど、オレは視線をそらしたまま。
マグカップを手にして、コーヒーを飲み終えた。
「……四ノ宮は、もう飲み終わった?」
「ん。ごちそうさま――――……オレ洗うよ」
オレが何か言うより早く、四ノ宮はマグカップを二つ手にして、キッチンの流しに歩いていく。
「いいよ、オレやるし」
「いいよ。すぐ終わる」
まあ、マグカップ二つなんて、こんなやり取りをしてる間にもう終わりそう。四ノ宮が水切りのトレイにマグカップを置いて、タオルで手を拭いて振り返る。
「……ありがと」
「いーえ。コーヒーごちそうさまでした。美味しかった」
「――――……うん」
……こういうのは、ほんとにまっすぐに、言うんだなあ。
と、袖を直している四ノ宮を見上げる。
「あのさ、四ノ宮……オレさ、なんか疲れたから」
「疲れた?」
「……もう寝たいから帰って?」
オレがそう言うと、四ノ宮はんー、と少し唸るみたいな声を出してから、苦笑い。
「どーしても帰ってほしい?」
「うん。帰って」
まっすぐ見つめたまま、はっきりとそう言うと、四ノ宮は少し困った顔をした。
「――――……約束しちゃったしな……」
しなきゃよかった、とか、ブツブツ言いながら、四ノ宮はちら、とオレを見る。
「奏斗が居てほしいなら、居るんだけどな」
「――――……帰ってって言ってるじゃん」
「分かった。まあ奏斗のベッドじゃ二人で寝れなそうだし。シングルでしょ?」
「そうだけど……つか、何言ってんの」
「……オレ、家で待ってるね」
「行かないって。もう疲れたから、すぐ寝るから」
もー、ほんと、意味分かんない。宇宙人。
「早く帰って。ほれほれ」
背中の真ん中あたりに手をかけて、どんどん玄関に向けて押していく。
「一緒に行こうよ」
「行かない。おやすみ」
そこで、また、ため息の四ノ宮。
仕方なさそうに玄関に進む後ろを歩いていると。
不意に振り返った四ノ宮に、あれよあれよという間に、壁に押し付けられた。
「……っっ」
「――――……奏斗」
耳元で囁かれる。
「……奏斗て、呼ぶのは? もう、いいよね?」
「――――……普通に、先輩て呼んでよ。あと……離せって」
手首掴まれて、壁に押し付けられてる。
「こーいうのも、もう無しにして」
「――――……無理」
言うと同時に、屈まれてキスされて。そのまま、キスで、上向かされる。
「……っ、ん」
優しく、上顎舐められて、ぞく、っと震える。
キスされると同時に、手を押さえる力は抜けて、触れてるだけになってる。
掴まれてる訳じゃないのに、動かせない。
だから。
――――……なんか。
このキス、繰り返されるのは、絶対、マズイんだって、なんか思うのに。
後頭部に手が回って、四ノ宮に押し付けられるみたいに。
もう、手首は離されてるのに。動けない。
こんなの、絶対、おかしい事だって、分かるのに。
◇ ◇ ◇ ◇
後書き
◇ ◇ ◇ ◇
一昨日、このお話が、デイリーランキング1位になってました♡
読んで下さって、リアクション下さる皆さま♡ ありがとうございます(*'ω'*)
その件でブログ書いたので、よろしければ♡
https://fujossy.jp/notes/31213
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