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第166話「興味」*大翔
不意に枕元に置いたスマホが鳴った。
奏斗かと思って、即持ったら――――……。
「葛城か……」
『がっかりした声だすのやめてもらえますか』
苦笑いを含んだ声が聞こえる。
『その後大丈夫でしたか?』
「ああ。――――……さっきまでは一緒だった」
『……あれからずっとですか?』
「そう。……心配だったし。泊まらせて、飯食わせてた」
『夜はどうなさってたんですか?』
「……泊ってた」
オレが一瞬黙った意味を悟ったのか、少し黙る葛城。
『そうですか。今は一緒じゃないんですよね』
「ああ」
『――――……振られましたか?』
「は?」
葛城の楽し気な言葉に、かなりむかつく。
別に振られたとか、そういう訳じゃないし。
「何だよ、振られたって」
『大翔さん、電話の出方が凄かったので。……急いで出ましたよね? 私からの電話を誰からだと思ったんですか?』
「……」
ほんとこういう時、やな奴だな。……くそ。
「別に振られたわけじゃねーし……」
ムカつきながら言うと、少し笑われる。
『とりあえず、雪谷さんは大丈夫なんですね』
「ああ。体は、大丈夫」
そう言うと、葛城が少し黙ってから。
『体は、って――――……その言い方だと、それ以外が大丈夫じゃないさそうですね』
「――――……」
それにはどれから答えて良いか分からず、言葉が出ない。
すると、葛城が続けて言った。
『大翔さん、言うと気分を害するかと思ったんですが』
「……何」
『見合い写真届いてますよ』
「……マジでそれどーでもいい。捨てといて」
先輩の事かと思って身構えてたら、そんな今更の事。
『そういう訳にも行かないんですが……』
「マジでどうでもいいし」
『――――……ひとつ確認よろしいですか』
「なんだよ」
『雪谷さんと、どうなりたいんですか?』
「――――……それ、ついさっき、奏斗に聞かれたんだけど。何でお前にまでこのタイミングで聞かれる訳」
はー、と、思わずため息。
『――――……名前で呼んでるんですか』
聞かれて、あ、しまった、と一瞬思うけれど、隠しても仕方ないかと、思い直して、頷いた。
「……まあ。……そう」
少しの沈黙の後、葛城がまた苦笑い。
『大学のゼミの先輩を名前で呼ぶというのはなかなかないですよね。もう覚悟して、呼び始めたという事ですか?』
「――――……つか。呼びたかっただけ」
『大翔さん』
葛城の声が少し真剣になる。こういう時は聞かないと、後でめちゃくちゃうるさい。
『不用意に何も考えずに近づいて構って、やっぱり違った、なんてことは、しないでくださいね。最初にも言いましたよね』
「――――……何も考えてない訳じゃねえよ」
『……もっと、です。私にはっきりと、どうしたいのか言えるまで考えて下さい。あなた次第で、この見合い写真をどうするか決めます』
「……それはマジでいらない。つかオレまだ大学入ったばっかだけど」
『あわよくば交際、あわよくば婚約、そういう立場に居るのも分かってますよね?』
「――――……」
『ほとんどが親戚や取引先ですけど、社長からのもありますからね』
「はー? 親父?」
『まあそれも預かっただけかもしれませんが……とにかく、何も考えずに雪谷さんに近づくのは却って傷つける事にもなりかねませんから。……大事なのはもう分かってはいるんですが……いつまでそうしてるつもりなんですか、という事も、考えてみてくださいね。……おそらく、女の子と少し付き合ってみるとか、そういうのとは、分けて考えた方がいいと思いますよ。そもそも、大翔さん、もともとは全くそちらの可能性は皆無だったんですし……』
「――――……」
『大翔さんがはっきりするまでは、とりあえず私の手元に残しておきますから』
「捨てていーって」
『そちらに覚悟がないなら、何人か会って頂く事にもなるかもしれません。どのお相手も、見た目も良いですし、趣味などを見ても、可愛らしい方も多いように見受けられますよ』
「――――……まったく興味、ねーんだけど」
そう言うと、葛城は呆れたように笑う。
『では、何に興味があるんですか?』
興味。今の興味。
――――……興味。
「――――……アイスティーをうまく入れるコツ」
咄嗟に浮かんだそれを口にしたら。は?と数秒固まられて。
『後でレシピお送りします』
と、笑われた。
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