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第180話「手の温度」*奏斗

 しばらくそのまま動かずに、ぼー、としていた。  もう今更で。  大地が知ってたのには驚いたけど……。  さっきご飯食べてた時もカズのこと話し始めてたっけ……。  話そうとしてたのかな。  オレが途中で、断ちきっちゃったから話せなかったんだろうな。  電話で良かったかも。動揺してたのも見られなくて済むし。  オレさっき、普通に話せてたよな。もう今更大丈夫って、ちゃんと言えてたよな……。  オレと和希の事……他にも知ってた奴、居たんだろうか。  バレないようにすごく気を付けてたのに、何で大地には、バレたんだろ。  ――――……大地に突っ込まれて、和希が固まってたって。  ……他人に言われて――――……オレとの関係。  マジで、考え直したのかなぁ……。  ……まあ。もう別に。今更だけど。 「――――……」  冷たい手を握り締めたその時。  インターホンが鳴った。  下のエントランスからじゃなくて、ドアの前の。  ……つか、もう、四ノ宮しかいないけど。  そのまま出ないでいると、こんこんこんこんこん……と小さいノックの音。  このまま、返事しないで過ごして、寝てたって、明日、言おうかな。  玄関が見える所で、立ち止まって、そうしようかなと考えていた時。 「奏斗、早く開けて」  ノックが止まって、四ノ宮の声がした。 「買っといたから、アイス色々ありますよ? 食べてていーから」  なんか、笑いながら、そんな風に言ってる。  ――――……オレが聞いてなかったら、そんなのただの独り言じゃん。  もー、なんなの。  ……ほんと。 「――――……」  寝たことにして、無視すれば。  一人で居られる。  そう思うのに。オレは、静かに、玄関まで歩いた。  そうして、なぜか、手を伸ばして、鍵を開けた。  すると、ドアがすぐ開いた。 「来るの遅いから迎えにきちゃったじゃん」  そんな事を言って、苦笑いを浮かべながら四ノ宮が入ってくる。  オレの顔を見ると、急に真顔になって、首を傾げた。 「――――……何。どうかした?」 「……何、が?」 「――――……」  四ノ宮が、む、とした顔をしたと思ったら。  オレに近付いてきて、手首を掴んできた。  引っ張られたオレは、四ノ宮に抱き締められた。  オレはいつもより一段高くて。いつもみたいに埋まらないで、ちょうど四ノ宮の肩辺りに顔があって。 「……な、に……」  そう言って、四ノ宮の顔を見ようとするのだけど、四ノ宮の手がオレの後頭部に回って、ぐい、と肩に押し付けられる。 「――――……オレんち、行こ?」 「――――……」 「奏斗、手ぇすげえ冷たい。温かいもん、いれてあげるから。行こ」  ……なんか。  喉の奥が、痛い。  よく分かんない涙が、薄くにじんで、自分に驚く。  そのまま、かたまっていると、涙はそのまま、落ちる事なく引いた。  ――――……しばらくして、四ノ宮が、オレを少し離して、オレの背中に触れて、軽くとんとんと叩いた。 「髪まだ濡れてるしドライヤーかけてあげるから。電気消してきて。スマホだけでいいでしょ、持ってくんの」 「――――……」  言われるまま、スマホを持って、電気を消して、玄関に行くと。  いつも置いてある場所からオレの家の鍵を持って、四ノ宮がオレの腕を引いた。  オレの部屋の鍵をなぜか四ノ宮が閉めて、そのまま、また腕を引かれて、隣の四ノ宮の家に押し込まれる。四ノ宮の玄関にオレの鍵が置かれるのを、ぼんやり見つめていると、四ノ宮がオレを見て笑いかける。 「ドライヤー持ってくから、リビング行ってて?」  部屋に上がったオレの背中をぽんと押してくる。押されるままにリビングに入って、最近いつもドライヤーをかけられている椅子に座った。  ていうか――――……最近いつも。とか。    へんなの。ほんとに。 「――――……」  ……なんか、少しだけ。  ――――……手の温度が戻ったような、気がする。  

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