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第181話「固まる」*奏斗

 四ノ宮がドライヤーを持ってきて、オレの髪に触れ始める。  ――――……何回目、だろ。こうしてやってもらうの。  こういうタイプなのかなあ。そう見えないのに。  ……オレの世話、しすぎだと思うんだけど……。 「はい、おわり」  ドライヤーのスイッチを切って、四ノ宮が言う。 「ドライヤーしたての奏斗ってさ」 「――――……?」 「すっげー幼く見える」 「…………」  かわいーかわいーと、ふざけた言い方で言って、オレをヨシヨシ撫でるので、ちょっと避ける。 「……早く食べなよ、ご飯」 「うん」  四ノ宮がレンジをスタートさせてから、ドライヤーを片付けに行った。  その間に、カウンターに用意されてるコーヒーメーカーの所に立って、コーヒーの準備を始めた。 「あ、淹れてくれんの?」  戻ってきた四ノ宮がオレの隣に立って、そんな風に言って笑う。 「だって、そういう意味で用意してたんじゃないの?」 「うん。まあ。そうだね」  クスクス笑ってオレを見下ろして、その時ちょうど音が鳴ったレンジの蓋を開ける。カウンターにお弁当を置いて、蓋を外してから、四ノ宮はオレを見た。 「アイス、食べます?」 「んー……アイスかぁ」 「要らない? 色々あるよ?」 「……どれでもいいから、ちょうだい」 「ん。……じゃあオレのおすすめ……」  そう言いながら、冷凍庫をガサゴソ。  少しして、オレの前に置かれたのは。 「チョコミント。……好き?」 「……ん」  ――――……和希とオレ、二人とも好きで、一緒によく、食べた。  ……これも、そういえば、全く食べなくなってたなぁ……。  ――――……そう思うと。  意識的でも無意識でも、和希としてたことを最大に避けて生きてきた気がして。なんか……オレって、ほんと、どうなの。と思ってしまう。 「あんまり好きじゃないなら、別のにするけど」  ふ、と笑んでオレを見つめてる四ノ宮の瞳を見てたら。 「好きだよ。……これがいい」  敢えて笑顔でそう言うと、四ノ宮も瞳を優しくして笑う。 「ん、どーぞ」  言いながらスプーンと一緒に、テーブルの上に置いて、それから弁当も運ぶ。 「オレは食後にコーヒー飲むから」  そう言って、水をコップに入れてる四ノ宮に、うん、と頷く。 「四ノ宮、食べてていいよ。さっきお腹空いたって言ってたじゃん」 「ん。いただきまーす」  言って、四ノ宮がやっと、食べ始めた。  マグカップを二つ持って、座ろうと思ったけど。  アイスは、すっかり、四ノ宮の隣の席に置いてあるし。  四人掛けのテーブルで、二人なのに、敢えて隣に座るとか。……カップルしかしないよな。と思って、向こう側に回ろうとした瞬間。 「奏斗、こっちでいーよ」    コーヒー持ってるからか、ほんとにそっと、手首を掴まれる。 「なんでいちいちそこに無駄な抵抗を入れるかな……」 「……何その言い方」 「だって、毎回、そっち行こうとして、オレに止められるの分かってるでしょ」  言いながら、可笑しそうに笑う。 「だって、毎回、おかしいなって思うんだし……」 「慣れて」 「――――……」  はー。  離されない手に諦めて、近くにマグカップを置いて、四ノ宮の隣に座る。 「あ。手、貸して?」 「手?」  不思議に思いながら、手の平を上に向けて少し上げると。  その手をぎゅっと握られた。 「――――……? 何……?」 「……手、すげー冷たかったから。さっき」 「……」 「アイス食べたらまた冷えるかな」  そんな事言って笑いながら。  でも今は戻ってるから平気か、と、オレの手を離す。  ――――……なんか。よく分からないけれど。  とっさに。 「……今日さ」 「ん?」 「……一緒に、寝る?」 「――――……え」  なんかすごい、真顔で見られて。  自分が言った言葉に、気付いた。 「あ。……なんでもない。ごめん……」  言った瞬間。  ぐい、と引かれて、抱き寄せられた。 「……寝るに決まってんじゃん。何のために迎えに行ったと思ってんの?」  クスクス笑いながら言った、四ノ宮が、オレから離れるまで。    ただ、固まって。  体も。気持ちも。  何もできず、何も考えられず。  ただ、固まってた。  

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