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第182話「泣くけど」*奏斗

 アイスを食べて、コーヒーを飲んで、片づけて。  寝る準備をして――――……四ノ宮と、ベッドに入る。  ここ何日かは寝室に行くと電気を小さいのだけにして、すぐベッドに入って横になって、抱き締められて……あっという間に眠りにつくだけだった。  でも、今日は、先に寝室にいた四ノ宮は、ベッドの上で壁に背を付けて、座っていて、オレを待ってた。 「電気消す?」 「いや。消さない。こっち来て」  オレは四ノ宮の側に行って立ち止まった。 「隣、座って?」 「――――……」  言われるまま、隣に、でも少し離れて座ると、四ノ宮は、ははっと笑った。 「何で微妙に離れるかなあ……」  言いながら、オレにぶつかるみたいに密着して、座り直す。 「――――……奏斗さあ」 「……」  真横の四ノ宮を見上げると、じっと見つめられる。 「――――……何か、あったよね? 言ってみて?」 「…………なんで?」 「だって、あったでしょ? 顔見れば分かるし。分かりやすすぎるんだよ」 「――――……オレ、むしろ、色々隠すの、うまいと思うんだけど……」 「じゃあ、オレには、隠せないってことで諦めて」  よく分からないことを言われるので、眉をひそめて、四ノ宮から視線を外す。 「――――……」  特別、新たに、何かがあって、事態が変わるとか、そんな話じゃない。  過去にあったという、知らなかったことを聞いて、おかげで、少しだけ納得できた、という話な気もする。  ……何で、とずっと思ってたけど――――……ほんとに、少しだけ。  ただ、それだけ。 「……四ノ宮さ」 「ん?」 「――――……何で別れたのとか……聞いてたじゃん?」 「……ん」 「……今も、聞きたい?」 「――――……」  しばらく、四ノ宮が無言。  ……あれ。すぐ、聞きたいってくるかと思ったのに。  不思議に思って、四ノ宮を見上げると、四ノ宮は、オレと見つめ合ってから、苦笑いを浮かべた。 「……言いたいなら、聞きますけど」 「――――……」 「口にしたくないなら、無理に言わなくていいよ」 「――――……聞きたいって言ってたじゃん……」 「……言ってたけど。言いたくないって、言ってたから」 「――――……」 「話すと嫌でも思い出すから、言いたくないんじゃないの? だったら、別に聞かなくてもいい」 「――――……」  ……なんでそーいう……優しいこと、ぽろっと、言うのかなぁ。  …………なんか。泣きそう、オレ。  だめだな。なんか。弱ってる。  ……しっかりしろよ。……今更だって分かってるし。もう随分前のことなのに。何回も何回も、そう思ってるのに。  はー、とため息をつきながら、少し立てた膝に、顔を埋めた。 「……話しても、いい?」 「――――……話せるなら、聞くよ」 「……オレ、多分――――……泣くけど」 「――――……何それ。泣く宣言するの?」  四ノ宮が、クスクス笑う。 「……泣いて、うざいと思うけど……」 「――――……」  四ノ宮は、少し黙ってから、ふー、と息をついて。  それから、オレの頭に手を乗せて、グリグリこねてくる。 「……なんだよ、もう」  ぐしゃぐしゃにされて、避けながら少し睨むと。 「……あんたが泣いたからって、オレが今更ウザイとか言うと思ってんなら」 「――――……」 「……相当、アホですね」  ……相当アホ、だって。  …………ひどくない?  思いながら。  ふ、と笑いが漏れてしまって――――……ひとしきり、笑ってから、四ノ宮を見つめた。   「――――……大した、話じゃないよ?」 「うん」 「良くある話、だよ?」 「うん」 「……ただオレが――――……割り切れないだけの……」 「――――……いいよ。何聞いたって、別に今のあんたと、変わんないから」 「――――……」  ――――……四ノ宮って。  詐欺師とか、オレ、言ってたけど。  カウンセラーとか。どうだろう、将来の仕事。  向いてるんじゃないだろうか……。    ……どこから話そうかなあ、と思いながら。  壁に寄りかかって、軽く立てた膝に肘をついてオレを見つめてる四ノ宮を、ただ、ぼんやり見つめ返す。

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