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第183話「別れた理由」*奏斗

「……中学の卒業式で告白して、高二までつきあったって言ったよね?」 「うん」 「和希が、引っ越す事になったんだ。高二の時」 「そこまでは聞きましたよ。幼馴染なんでしょ?」 「……うん」  頷いて、少し黙る。 「……最初は、離れても、別れないって、言ってたんだ」 「ん」 「だけど――――……引っ越す前の日に……別れたいって言われた」 「……うん」  四ノ宮がオレをじっと見つめる。 「……好きすぎるから――――……もう、別れたいって」  そう言ったら、四ノ宮は少し瞬きをして、それから、ん?と首を傾げた。 「好きすぎる?」 「……うん」 「……別れる理由がそれ?」 「――――……うん」  しばらくの間、四ノ宮は黙って、考えてる。  オレは、続きを言おうと、口を開く。 「……オレのことが、好きで、しょうがないって……」 「――――……」 「でも男同士で――――……それを、誰にも言えないって……」 「――――……」  四ノ宮は考え深げにオレをじっと見つめたまま、何も言わない。オレは少し視線を外して、前を向いた。 「……オレのことが大好きで、オレとそうなったけど……やっぱりずっとこのままは、無理だって。転校が良い機会だって、言われた」 「……うん。それで?……奏斗は何て答えたの?」 「……最初は――――……好きなら、何でって……言ったけど……」 「――――……」  声が、震える。  ――――……一番思い出したくなくて、一番、考えたくない記憶。  ……人に話す日が来るとは思わなかった。 「……泣くんだもん。和希が。……オレの事、めちゃくちゃ好きだって……多分ずっと好きだけど別れたいって――――……今しか別れられないから、ここで、別れてくれって。大好きなのにごめんって」  どう堪えても声が震えて――――……。 「……オレと居ても、将来がないって。子供も作れないし、人に、男同士だって、知られたくないって……ごめん、続けられないって。……そんなのもう……受けるしかなくて……分かったって、言って……」  涙が浮かんで――――……あ、やば、と思った瞬間。  四ノ宮に腕を引かれて、ぎゅ、と抱き締められた。 「……うん」  それだけ言って、オレの頭に置いた手で、ポンポンと、撫でてくる。 「……よく、分かんないまま……最後にキスしていいか聞かれて……別れる時、キス、したら――――……父さんに見られて、家ん中、最悪になるし……」 「――――……ん……」  四ノ宮は余計なことは、言わずに、ただ頷く。 「……あんなに、お互い好きでも、終わるんだと思って……」 「――――……」 「……だからもう……好きとか……なくていいって、思って……」 「――――……ん」  零れた涙は、四ノ宮の服に落ちていって、消えていく。 「……別れてからもずっと……何でって、思ってたんだ、オレ」 「――――……」 「転校が決まった時は、絶対別れたくないって言ってたのに……何でだったんだろうって……」 「……うん」 「……そしたら――――……さっき大地が電話、してきて……」 「電話? さっき帰ってから?」 「……うん」  少し離されて、顔を見つめられる。  さっき大地に聞いた話を、四ノ宮に、伝える。 「――――……ふうん……バレてたんだ、あいつに」 「……そうみたい……」 「――――……それを、和希に言ったのか……」  四ノ宮はため息交じりにそうつぶやく。 「……大地にバレたって思ったら……きっと、想像してたより、すごく嫌で――――……だから続けるのは無理だって、結論になったんだろうなって……なんか、さっき納得して……」 「――――……」 「……納得は、したんだけど――――……なんか……すごく……」 「……うん」 「すごく――――……」  何か言葉が見つからなくて。何も言えないでいると。  四ノ宮は、ん、と言って。そのまま、またオレを抱き寄せた。 「分かったから、もう、いいよ」  そう言われて。  ……もういいよ、と言われて。ぎゅう、と抱き締められた。  よく分からないけど、なんだか、すごくほっとして。  涙がまた滲んできて、瞬きを繰り返している内に、ぽろ、と零れた。  きつく抱き締められているから。  泣いてるのは、見られなくて済むな、と、ぼんやり思う。

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