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第184話「何だそれ」*大翔

 奏斗の話を聞いて思ったのは。  よくある話じゃなかった、ってこと。  ――――……好きすぎるから、このタイミングで別れてくれって。  物理的に、会えなくなるこのタイミングしか別れられないって。  奏斗のことは好きだけど、男同士だから、将来的に、やっぱり無理だとか……。  大好きだけどって……。  ――――……何だ、それ。  嫌いだから別れたいって言った方が、よっぽど優しい。  大好きだなんて、最後に言って、それでも別れたいなんて、泣いた?  で、キスして。奏斗の父親にバレて……。  ……マジで、ふざけんな。  ぶん殴ってやりたい。     ――――……それで、今更何の用だっつの……。  あー、すげえムカムカする。 「――――……」  言い終わって、しばらく埋まったまま泣いてたみたいだけど、抱き締めてたら、その内、泣き止んだ。 「……奏斗?」 「……ん」 「鼻、かむ?」 「――――……四ノ宮の服でかんだ……」 「……マジで?」 「……嘘だよ」  涙声で笑う。  なんだか、可愛く感じてしまう。  腕を伸ばして、ティッシュを取ると、すこし体を起こさせて、奏斗に渡す。  鼻をかんで、はあ、と息をついてる。 「……ごめん。やっぱり話すと――――……ダメみたい」 「いいよ」  ティッシュを受け取って、ゴミ箱に投げ入れて、もう一度、抱き寄せた。 「……でもそれは、あんたが悪いんじゃない」 「――――……」 「結局、男同士ってのが……無理だったんだろ。そういうのは、仕方ない。奏斗のせいじゃない」  オレを見あげている奏斗を見つめたまま、そう言うと。  奏斗は、しばらくオレをじっと見ていたけど。  うん、と、笑った。 「……そう、なんだけどね」 「――――……だけどじゃねえよ」  俯きそうになるその頬に手をかけて、あげさせる。 「……奏斗」 「――――……」 「それ、もう忘れろよ」 「――――……」 「……ただ、そいつが、覚悟が無かっただけだろ。奏斗のことは好きだったんだろ。嫌われてもない。奏斗が相手じゃなくても、そいつはそうしたんだろ。奏斗のせいじゃない」 「――――……でも、オレは……女の子は、好きになれないから」 「……だから、なに?」 「あんなに……お互い好きでも、終わるんだって、思うから……」 「覚悟できる奴と、付き合えばいいじゃんか」 「うん。……そう、なんだけどね……」 「――――……」 「……信じるのも……あんな風になるのも、もう、嫌だなって」  視線が逸らされて、瞳が、揺れる。  ため息をつきそうになったけど、ぐっと息を止めて、奏斗を抱き締めた。 「……あんたが、ちゃんと、忘れられるまで、ずっと居るから」 「――――……」 「泣きたくなったら、オレのとこおいでよ?」 「――――……」  返事はしなかったけど。  オレに抱き締められたまま、前に垂れてた奏斗の手が、暫くしてオレの背中を握り締めたから。  それでいいやと、思った。

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