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第185話「柄じゃない」*大翔

  「――――……」  抱き締めていたら、泣き疲れたみたいに、眠ってしまった。  しばらくオレは壁に寄りかかったまま、奏斗を抱いていたけれど、その内、ベッドに横たわらせた。  くったりと力なく横になってる奏斗に薄い布団をかけてやってから、その隣に奏斗の方を向いて寝転がり、肘をついた。 「――――……」  空いてる手で奏斗の頬に触れて、親指で唇に触れる。  ――――……そういや、キス、してないな。ここ何日か。  なんか下手に何かすると、もう来ないとか言いそうだから。  なんとなく、今は良い後輩で居てやろうかなと思ったのだけれど。  こないだ、結構色々して、そんなにそういうの求めてないだろうと思ったし。  ――――……でもオレ。この人に、触りたいかも。  ……ただ、それだと。  少し違う事になるのも分かってる。  先輩がどこかに行くつもりならオレが、じゃなくて。  オレが触りたいから、になってしまう。  ――――……そんなの、この人、受け入れてくれるかな。  恋なんかしたくないって、まだ強く思ってる。  大好きでも別れた、か……。  ……すげー、嫌な記憶、だろうな。 「――――…………」  泣いてたせいか――――……息を吸った瞬間に、ひゅ、としゃくりあげるみたいな、変な呼吸。  髪にサラサラと触れて、優しく、撫でる。 「――――……」  付き合ってた奴と別れるなんて、どっちかが気持ちが冷めて、どっちかが振られる。色んな理由があろうが、ほぼそれだと思い込んでたけど。  ――――……大好きだから、か。  この人のこと、大好きだったのか。  ――――……なんか。  そこに関しては。  ――――……なんとなく、同意。  おそらくまっすぐに大好きだった奏斗は、和希にとっても、すげえ可愛い存在だったんじゃ、ねえのかな。  だからこその。  ……別れるなら、その時しかない、みたいな。  その気持ちが、なんとなくだけど、少し、分かるような気がする。   ゲイじゃないノンケの高校生が、部活の後輩にバレて焦って。  でも奏斗のことが好きで……転校で会えなくなるそのタイミングで別れないと別れられないって思ったってことだろ。  奏斗にとったら、ひどい話だろうけど。  奏斗の気持ちを考えると、ムカついてしょうがないけど。  ――――……じゃあ。  今、和希が、奏斗と連絡を取ろうとしてるなら。  ……理由は、ひとつしか、ない気がする。  無理矢理別れてみたけど、好きな気持ちは変わらなかった。  今度こそ、覚悟した――――……とか……?  目の前で、長い睫毛が、震える。 「……ねーな」  思わず、声に出して呟いてしまった。  こんなに泣かせて、こんなに傷つけて別れておいて、やっぱり好きだったから、とか、ありえない。  奏斗と枕の間に腕を挿しこんで、自分の腕に頭が乗るように引き寄せて、そのまま、ぎゅ、と抱き締める。 「……ん……」  少し唸って、でも、そのまま、すぐに寝息を立て始める。  柄にもない。  腕枕とか、今まで、したいと思った事も無いのに。  ……そもそも一人で、広々寝たいしな、オレ……。  ベッドも、小さいのは嫌いだから大きくしただけで、誰かと一緒に寝る為なんかじゃなかった。  ……寝てる時、奏斗は。  寒いわけではないと思うのだけれど、寝ながら、すり、とくっついてくる。  ……猫、みてえ。  ふ、と、口元が綻んでしまう。    腕の中で、安心できるなら、ずっと、このまま抱いててやりたいとか。  ――――……我ながら、意味がわからねーよな……。  そんなことを思いながら、眠りについた。

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