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第187話「複雑」*大翔

「――――……」  舌をゆっくり絡める。  気配を感じて瞳を開けると、奏斗がじっとオレを見つめてた。 「……オレのキス、嫌?」 「――――……」  クスクス笑いながら聞くと、奏斗は、困った顔をして、少し頷く。 「――――……本当に嫌?」  ゆっくりゆっくり、キスを重ねて、離す。 「……すごく嫌じゃないけど――――……嫌じゃないのも、嫌だ」 「――――……なんか、難しいこと言うね」  どういう意味?  嫌じゃないのも、嫌だって。  嫌だけど、すごく嫌じゃなくて、それも、嫌ってこと? 「……よくわかんないけど、すごく嫌ではない?」 「――――……わかんない。慣らされた、だけな気もする」  そんな台詞に、ちょっと笑ってしまう。 「……慣れてって、オレ、言ったしね」 「――――……」 「めいっぱい、キスするから――――……そのまま、寝ていいよ」 「何、それ……そんなの、眠れる訳ないし」 「……そーかな。やってみよ?」 「――――……」  引き寄せて、唇を重ねる。 「――――……」  抵抗は。  ……ないんだよなー。  多分この人――――……オレとキスするのは、わりと平気になってる。  慣れたって言ったのが、そのまま、なのかも。  ――――……それは、思っていたとおり。まさに、狙いどおりではある。  オレとキスするのが、普通になるようにって、思ってたし。 「……ん、ぅ……」  深くキスすると、声があがる。  なんか――――……オレは。  奏斗と、キスがしたくて、してる。  ――――……そう言ったら。  ……それは、嫌がるのかな。    「ん、ふ……っ」  ぎゅう、と目を閉じて。少し苦しそうに、唇を離されそうになるけれど。  手を頬から後ろに滑らせて固定させて、覆いかぶさるみたいにキスしたまま、ベッドに横にした。枕に埋めさせて、逃げれない状態で、うなじを押さえてキスを繰り返す。 「――――……ン、ン……っ」  は、と息をついて、何とかオレを見上げてくる瞳は涙が滲んでいて。    ああ、なんか――――……。  このまま、抱いてしまいたい。  とか、思ってしまう。 「……ん――――……っ……ふ、ぁ……」  何度も、角度を変えながら。  舌を絡め取ってキスしている内に、めちゃくちゃトロトロしだして。  眠いとこにもってきて、まあちょっと軽い酸欠。  緩いキスに変えて、めちゃくちゃ優しく頭を撫でている内に、すぅ、と眠りだした。  ……ほんとに、寝た?  それに気づいた時の――――……何とも言えない気持ちに、少し自分の口元を押さえて固まった。  とりあえず体を起こして、ベッドに座り、すやすや寝てる奏斗を見下ろす。 「――――……」  ……なんだろ。これ。  ――――……すげー可愛く見えるんだけど。  まあ。顔が可愛いのは最初から知ってるけど。  …………なんか、よく分かんねえくらい。可愛いな。    そっとそっと、髪に触れて、撫でる。  指先で、頬に触れて。 「――――……」  ――――……何だかなぁ……。  今日のあの後輩も。奏斗のこと、抱き締めるとか、ムカつくし。  ……こないだクラブ行った時も、すげえ見られてたし。  リクさんだって、絶対、可愛がってるし。  ゼミの先輩達だって、先生だって可愛がってるし。  あの人達、多分、ゲイじゃないだろうに。  …………つか。葛城も、結構気に入ってると思うんだよな……。  あの葛城が。こんな僅かな間に。  ……どっちにしても、この人、望めばすぐ恋人出来そう。    そしたら、オレは――――……離れんのか?  まあ……そんなにすぐには、恋人を望む気はしないから。しばらくはこのままでいいとしても。  ――――……なんか、複雑な、モヤモヤが胸に湧く。  まあ考えていてもすぐ答えが出る訳もないので、とりあえず、再び奏斗を抱き寄せてから、目を閉じた。

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