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第192話「愛されるとこ」*大翔

「…………っ」  少しだけ、キスして。ちゅ、と音を立ててから、ゆっくり離す。  かあっと赤くなった奏斗の頬に触れると、睨まれる。 「だ、から、キス、すんなって、朝言ったじゃんか」 「……オレ、嫌だって、言いましたよね」 「……っもうオレ、一人で行くからなっ」  ば、と手を振りほどかれて、奏斗が玄関に向かっていくのについていく。 「待ってるからね、奏斗が来るまで」 「……オレ来なかったらどーすんの」 「待ってるよ」  クスクス笑ってそう答えると、奏斗は、むーっとした顔で、置いておいた鍵を手に出て行った。  一応鍵をかけて、そのまま部屋に戻る。  セックスには慣れてんのに。  キスに慣れてないとか。  ――――……なんか。ちぐはぐな。  でもなんか。  ……よくわかんね。――――……可愛いとか。    学校の鞄を用意して玄関に置いてから、テーブルに肘をついて腰かけた。  しばらく、そのまま奏斗が言ってたセリフ諸々を思い浮かべる。  ……なんつーか。  バレたくないっていうのと。  オレにも迷惑かけたくないっていうのと。  ――――……それから多分。  誰かに依存して、頼るのも嫌なんだろうなと、思う。一人で生きてくこと、決めてる気がする。  すごく好き同士の和希とダメだったんだから、もうそれ以上好きになるのは無理で、だったらもう恋愛なんてしたって無駄だって。したくないって、思ってる。  そんだけ和希が全てだったってことだよな。  ――――……なんか……すっげームカつくけど。  ……あの話をオレに話せたのは――――……。  昨日あの後輩に会って、後輩と和希のやりとりを知って、別れを告げられた意味を、納得したってことか?  ……後輩にバレて、和希が耐えられなくなったのを、奏斗は、しょうがなかったと思った、ってこと? だから、オレに、やっと話せた?  ――――……でも泣いてたしな。  納得なんかいくはずない。  何だか自分の中まで、ぐちゃぐちゃになっていく気がする。  オレにだって、納得いかないんだから、奏斗のその気持ちは、どんだけだったんだろうと想像すると、またため息を付きそうになる。  ……つか。おせーけど。  まさかマジでオレのこと置いて、一人で行ってねーよな。  めちゃくちゃ不快に思った瞬間。  こんこん、と、ノックの音。 「――――……」  途端に顔が綻ぶ自分に気付いて、苦笑いで口元を少し引き締める。  ……にしても、ピンポン鳴らさないのが、ささやかすぎる抵抗な気がして、また少し、笑ってしまう。 「……奏斗?」  玄関で靴を履きながら言うと、「他に誰がノックすんだよ」と、すごく嫌そうな声が聞こえてくる。  心底嫌そうな声なのに。それでもなんだかついつい、また笑ってしまうオレは。一体なにがこんなに気に入ってるんだか。よく分からないが。 「お待たせ」  ドアを開けて、外に、嫌そうな奏斗の複雑な顔を見ると。  なんだかめちゃくちゃキスして、とろけさせたいなーとか。すぐ浮かぶ感覚に、まあ外なので、踏みとどまりながら、鍵をかける。 「いこ」  歩き出すと、嫌そうに後ろをついてくるけど。  普通に違う話を始めると、オレを普通に見上げて、頷いて、ちょっと笑顔で、会話を始める。  やっぱり、この人が、人に愛されるとこ。  こういうとこ、なんだろうなと、ぼんやり思う。    オレ、相当訳わかんないこと言ってるし、やってる自覚もあるのに。  そんなオレにも、こんな感じ。  つか。なんか騙されそうで心配だけど。……まあ側に居るから、いいか。

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