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第193話「再会」*大翔
「大翔、この地下の食堂行く?」
「ああ、行くけど……購買寄ってから行く。先行ってて」
「OK」
二限が終わってそんな会話をしながら立ち上がると、近くにいた女子がオレに近付いてきた。
「あたしも行きたい、一緒に行っていい?」
「綾も、用ある?」
「うん」
「いいよ、いこ」
――――……いいよの前に、頭の中では山ほどのうんざりが浮かんだのだけれど、間もおくことなく、いいよと言った。
誰もオレが、今面倒がってるとか、思わないんだろうな……。
全然気は進まないけれど、綾と一緒に購買に向かって歩き出す。
三階から二階におりた所で、ちょうど二階から階段の方に来た人の中に。
奏斗を発見。
発見というか、ばっちり、目の前。
「あ」
二人で、同時にそう言った。
「お疲れ様です。――――……先輩は、昼どこですか?」
「ここの地下に行く。……四宮は?」
「オレもここですけど。購買行ってきます」
微妙な会話をしつつ、一階にたどり着いた所で、「じゃあゼミで」と言って、先輩と別れた。
先輩と話してるのを隣で聞いてた綾が、オレを見上げてくる。
「大翔のゼミの先輩?」
「そうだよ」
「アイドルしてますって言われても信じちゃいそう」
そんな風に言う綾に、そう?と返しながら。
――――……つか。オレが綾と歩いてんの、見たよなぁ……と、何だかちょっと、ため息をつきたい。
「大翔、今日はゼミの後は?」
「多分食事。先週も先々週も無かったから。先生に何も無ければ、ほぼ強制」
「えー、そうなの? 先週とか無かったの? だったら一緒に飲み会したかったー」
「飲み会?」
「先週金曜、飲み会してたの」
「酒ありで?」
「もちろん飲める人だけね」
綾が、ふふ、と笑顔で見上げてくる。「そっか」と返事をしながら、先週の金曜か、と思い出すと。
――――……合コン行って、奏斗と、そうなった日か。
なんかあれからまだ一週間かと思うと。すごく長かったなと思う。
「今度、ゼミの食事が無かったら、教えて?」
「分かった」
頷きながら、購買に足を踏み入れた。
校舎は、改築をしているか、新築なので綺麗だが、購買だけは何だか昔ながらの狭い建物。文房具とかもごちゃごちゃしてるし、本も雑多に置いてあるし、なにより通路が狭すぎて、行き来するのも、やっと。
正直好きじゃない。でも、ボールペンの芯がなくなったから仕方ない。
「綾、オレ、奥に行ってくるから」
「うん。じゃあ買い終わったら、外で待ってるね」
「ああ」
奥に向かって進む。一人、文具の所にでかそうな男が立ってて、あー、芯はあそこらへんだな。狭い……と嫌気がさしながら近づく。
「――――……」
近づいて、ボールペンの芯を探すと、ちょうど立ってる男の目の前にある。
「すみません」
「あ、はい……」
少しどいてもらおうと思って声をかけると、ふ、とこっちを見た男が、オレを見て、あ、と声を出した。
知り合いだったか?
そう思って、ふ、と顔を合わせた瞬間。
こっちも思わず、あ、と言ってしまった。
昨日の――――……奏斗の後輩だ。
どんな再会だ。
「……あ、と……」
奏斗の後輩――――……大地、だっけか。
大地は、合わせてしまった視線を外せないようで、なんか困った顔をしてる。
「……昨日、会った、よね」
そんな風に言って、苦笑してる。
よく覚えてんな。
オレの方は、こいつが奏斗に抱き付いてたから、むかついて見てたから覚えてるけど。
「……あ、新入生代表してたでしょ。顔だけ見てたから。その話、昨日先輩ともしてたからさ」
そう言ってから、「何の言い訳してんだ、オレ……」とか言って、大地はまた苦笑いを浮かべている。
「ごめん、どうぞ」
言って、大地が二歩くらい引いた。
「どーも……」
言って、とりあえず、替え芯を探して、手に取った。
なんだか気まずい。
――――……が。
オレは一体何を考えてるんだか。
「……ちょっと、時間、ある?」
そう、言っていた。
「え?」
大地は、オレを見て、首を傾げてる。
「昼。どっかで食べないか? 話したいこと、ある」
「――――……え、オレと?」
……そりゃそうだろうという反応。
――――……オレだって、自分で意味が分からないが。
撤回しようとする言葉は、
出てこない、みたいだ。
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