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第194話「聞きたいこと」*大翔

 とりあえずオレは替え芯を買って、外で待っていた綾に急用が出来たと伝えると、つまらなそうにはしていたけれど、その内渋々頷いて、食堂に向かって消えて行った。  そのまま、外で大地が出てくるのを待つ。 「ごめん、お待たせ」 「いや。……急に悪い」 「いいけど……」  大地は、オレを見てクスクス笑う。  ……やっぱデカいな。ちょっとオレよりデカいかな。あんまり居ないかも。 「……えーっと……どう、したらいい?」  そう聞いてくるので、オレは、学校とは反対の道を指した。 「向こうのカフェで良いか?」 「学校の食堂とかじゃなくて?」 「聞かれたくないから」  オレがそう言うと、渋々とだけれど、頷いて、一緒に歩き始める。  大学の中にいくつも食堂があるのでほとんど誰も行かないが、わりと広めのカフェがある。休講で一人になりたい時にたまに利用するけれど、隣の席と割と離れているので聞かれたくない話をするには、もってこいの店。  さすがに昼時で少しは人が入っているが、窓際の端の席が空いてたので、ちょうど良かった。  二人で座って、とりあえず、食事を注文してから、大地は困ったようにオレを見た。 「――――……えーと。……きっと、先輩の話、だよね」  そう言って、オレを見つめるので、オレが視線を返すと、苦笑いを浮かべる。 「だって、オレ達の間で聞かれたくない話って言ったら、それしかないよね」  オレは、黙って頷いた。  話は早いな。  ――――……そうだよな、こいつ、奏斗と和希のことに気が付いた奴だもんな。そういうのには敏い奴ってことで良いよな……。 「えーっと……とりあえず、何て呼べばいい?」 「四ノ宮。そっちは?」 「江川大地、だよ」 「じゃあ江川で呼ぶ」 「うん。……それでさ、四ノ宮はさ、何が聞きたいの?」 「――――……」  江川の質問に。一瞬止まる。  何が、聞きたい。  ――――……という程の何かがあった訳ではないような。  咄嗟に色々考えて、こいつにしか聞けないことを、思い浮かべた。 「……江川から見た、和希って奴のこと……どんな奴なのかとか」  そう言うと、え、と江川は目を見開いた。 「――――……カズ先輩のこと、知ってんの?」 「……名前は知ってる。どんな関係だったかも」 「……へえ。意外」  江川は、心から意外そうな顔をして、オレを見た。 「意外って?」 「……カナ先輩が、他の奴にそれを話すなんて、無さそうだから」 「――――……」 「四ノ宮は、カナ先輩と、どんな関係?」 「……ゼミの先輩と後輩」 「――――……それだけの人に、カナ先輩が、カズ先輩のこと言うかな」  じっと見つめられる。  まあ、確かに。  ――――……端的に理由を言っとくか……。 「ちょっとした事故で……先輩の秘密、知っちまっただけ。そこから、少し、秘密を共有してる」 「――――……事故って?」 「……それは言えない」 「――――……ふうん……まあでも、色々知ってる事は確かそうだもんなぁ」  ふー、と、江川がため息をつく。 「だって、オレが先輩のそこらへんを知ってるのって、オレ昨日の夜に先輩に話したんだよ。それをもう、四ノ宮が知ってるってことだよね……ふーん。やっぱり意外だな」  そういうことではあるけれど。  ……ちょっと、勘が良すぎるかも。でも、いまのとこ、こいつにしか聞けないしな。仕方ない。  ……つか、オレが江川のこと、ランチに誘って和希の話を聞いたとか。奏斗に言ったら、怒るかな。と、今更なことに、今更気づいたが。  ――――……さっき誘う前に気づいていても、誘うのをやめる選択肢は無かった気がするから、もうそこは、流すことにした。

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