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第196話「不愉快」*大翔

 食事が来て、二人で食べ始める。  ふと少し冷静になると、目の前の江川の存在が何だかものすごくおかしく見えてくる。  何でオレは、こいつと一緒にカフェで昼食ってんだろ……。  絶対おかしいよな。  ……オレ、こういうこと、するタイプじゃない。  深く関わんねえし。  ――――……奏斗の元カレの事が聞きたくて、まったくかけらも知らない、奏斗の後輩を捕まえて、一緒に食事しているとか。  よく考えたら、マジで、ありえないな。  そんなことをモヤモヤ考えながら、食べるのに集中したフリで黙っていると、江川がオレをじっと見ていることに気が付いた。 「……何?」 「――――……いや。気のせい、かなと思って」 「何が?」 「んー……」  パスタの大盛りを食べながら、少し下がった位置からオレを見ると、江川は少し首を傾げた。 「何だよ?」 「……いや」 「言えよ。めんどくせーな」  思わずそう言ってしまうと。 「――――……何か、四ノ宮、イメージ違うね?」 「……?」 「すっげー優しい王子様なのかと思ってた」 「――――……」  奏斗に抱き付いてたのもあって、その後、奏斗を泣かせた……いや、泣かせたのは和希か。こいつは、奏斗が振られたきっかけを作った……かもしれない奴、というのもあって。  外面取り繕うっていう気が、かけらもなかった。 「まあ、王子っぽいのとか意味分かんないから、いいけど」  はは、と笑いながらオレを見る。 「だから、さっきの気のせいとか、何だよ?」  オレが焦れて聞くと。 「……少しね、カズ先輩に似てるかなーって思ったんだけど。気のせいかな」 「――――……」  ……なんか奏斗も言ってたような。  つか、全然、嬉しくない。 「……あのさ、四ノ宮はさ」  江川を正面から見つめ返すと。 「カナ先輩のこと、好きなの?」 「――――……」  その質問に、思わず、首を傾げてしまう。 「好きって?」 「――――……恋愛とか……」 「――――……恋愛……?」  オレが、奏斗を、恋愛で? 「なんか、すっげー不思議そうだね」  江川はぷ、と吹き出して、そのままクスクス笑いながらオレを見つめる。   「四ノ宮は女の子が対象の人かな。まあそうだよね、超モテるでしょ」 「――――……江川は?」 「ん?」 「お前の対象って?」 「オレはどっちも。可愛い人がいいな。顔もだけど……中身も」 「――――……」  可愛い人。  ――――……可愛い。 「カナ先輩って、すっごい可愛いよね」 「――――……つか、今もそうな訳?」  そう聞くと、江川は、んー、と一度唸った。 「まあさ。カナ先輩と会えてない間、別の子と付き合ったりはしてたけどさ」 「――――……」 「でも、昨日会えて――――……やっぱり、この人、可愛いなあって思った」  ふ、と微笑むのを見て、何だかものすごく、モヤモヤする。 「まだ久しぶりに会ったところだから分かんないけどね。でも会えて、すっげー嬉しかった」 「――――……」  何だか、何と答えるべきかわからない。  黙ってるオレを見て、江川も少し黙ってから、苦笑いを浮かべた。 「あのさぁ?」 「――――……」 「……やっぱり、好きなの? カナ先輩のこと」  何でもう一度聞かれた?と思いながら、江川を見返すと、オレのその気持ちが分かったようで。 「だって、なんか、すげー不満そうだからさ、オレがカナ先輩を可愛いって言ってると」  そんな風に言われて。少し考える。 「――――……別に。無いけど、そんなこと」  そう言うと、また少し黙った江川は、クスクス笑い出した。 「なんか四ノ宮って――――……面白ぇな?」  ケタケタおかしそうに笑っている。 「何がだよ」  ――――……何だかよく分からないけど、すげえ不愉快。  

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