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第197話「めんどくさい」*大翔
「……そんなにカナ先輩のことで一生懸命なのにさ、何も分かってないとか」
「――――……」
何だかとてもとても不愉快で、オレはため息をついた。
そのまま、最後の一口を食べ終わる。
「……江川さ」
「うん」
「……和希と別れたって分かった時、迫らなかった訳?」
そう聞くと、江川は少し眉をひそめて。
水で最後の一口を流し込んだ。
「――――……迫ってないよ」
「それは、何で?」
聞くと、江川は、さっきのオレみたいなため息を付いてから、渋々といった感じで口を開いた。
「……だって、多分、オレが余計なこと言ったせいでさ、あんなことになって……先輩、すごい無理してたし……しかも受験だったし。これ以上余計なことはしたくないって思ったから」
「――――……」
「だからほんとは、先輩が卒業したら、連絡取って、あの話もして、オレが好きだってことも言おうと思ってたのにさ」
「――――……」
「連絡取れなくなっちゃうしさ」
――――……なるほど。
……何となく知りたかった、大体のとこは分かったかな。
そう思うと同時に、時計を確認すると、ちょうどいい時間。そろそろか。
「そろそろ学校の方戻るか……」
「あ、そだね」
「ここ、オレ払うから」
立ち上がって、伝票を取ると、「え、何で?」と江川に言われる。
「無理やり連れてきたのオレだから」
「――――……なーんか、断っても払いそうだから……ん、ごちそうさま」
苦笑いで言って、江川も立ち上がる。
レジを終えて、外に出て、少しゆっくり歩き始める。
「――――……四ノ宮ってさ、カナ先輩の何なの?」
「……ゼミの後輩」
「カナ先輩、四ノ宮の事、好きとか?」
「無いな」
そういうんじゃない。
即答すると、江川は「おもしろ」と言って笑う。
「……ひとつ言っときたいんだけど」
「ん。何?」
オレの言葉に江川が、視線を流してくる。それを見つめ返して、さっきから言いたかったことを、口にした。
「言っとくけど、可愛いってだけじゃねえから」
「……何、可愛いだけじゃないって? 綺麗とか?」
「ちげーっつの」
「……じゃなんだよ」
即座に突っ込むと、笑いながら、先を促してくる。
「顔可愛いとか、中身可愛いとか。――――……そんなんだけじゃねえ」
「――――……」
「……すっげーめんどくせえから」
「――――……は?」
「可愛い可愛いってさっき言ってたけど。奏斗、すげえ面倒くせえ」
「――――……」
「……可愛い奴が好きなら、やめといた方がいいと思うけど」
オレが言うと、江川は、しばらくぽかん、と口を開けてて。
「……つか。奏斗って呼んでんの、カナ先輩のこと」
「――――……呼んでる」
「どういう関係なの、マジで」
「……知らねえよ。関係で言うなら……ゼミの先輩と後輩」
「――――……それが何で呼び捨てな訳?」
「めんどくさすぎて――――……覚悟の意味こめて呼び捨て」
「――――……ふうん……?」
少しの間じっと見つめられていたけれど。
江川はオレを見て、苦笑い。
「――――……カナ先輩のこと、好きって言うんじゃなければ、オレがどうしたって、四ノ宮には関係ないよね?」
「――――……」
「オレも、まだ分かんない。高校ん時は好きだったけど、もう会えないのかと思ってたし。だからずっと好きだったとかは言えないけどさ。……ずっと忘れてはなかった」
「――――……」
「……その内ライバルんなるかもしれないけど。まあ、選ぶのは先輩だし。仲良くしようぜ」
クスクス笑われて何だかムカつくので一言。
「無理」
そう言うと。
ますますおかしそうに笑う。
「なんかほんと、イメージ違う。さわやかスマイルどこやった?」
「うるさい」
どこで「さわやかスマイル」なんて見られてんだ。
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