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第199話「めんどくせえのに」*大翔

 江川と別れてそのまま、授業の教室に入り、遅かったこともあって、一番端に一人で座った。  すぐに教授が入ってきて、ギリギリセーフ。  雑談から始まって、授業が開始される。  ――――……さっきの話が頭に浮かんでくる。 「――――……」  よりを戻したいとか、そんな話、ありえないと思うけど。  ……和希が、ただ謝るだけで、奏斗に会いたいと思うだろうかって話。  謝って終わりなんて。  ――――……謝って……やり直したいから、会いたい。  まあそれしか、考えられない。  もう恋とかしたくないって。  あんなに好きでもだめだったから、もういいって、奏斗は言ってるけど。  そんなに好きだった相手が、やり直したいって言ってくるなら話は別だよな。……そもそもが、好きだけど今しか別れられないって言われたわけだし。別れる時ですら好きで。別れても好きだったって、なったら。  ……奏斗は、それを、断る理由はないよな。  和希が悩んで別れて、それでも好きだったって、言われたら。  ――――……。    きっとそうなる。……のかな。  ……まあ、それで、奏斗はきっと、幸せなんだろうし。  ――――……今までみたいに、その場限りなんて、二度としないだろうし。  和希の側で、笑って、生きてけるんだろうし。  ……それはそれで、オレが心配することは、何もなくなる訳で。 「――――……」  ……なんか。  よく分かんねえけど。  すげえ、イライラする。  一回、そんな風に傷つけて、奏斗を捨てた奴に。  全部任せて、渡すとか……。    あー。  ……つか全然頭入ってこねえな……。  教授の話も、板書されていく文字も、何も入ってこない。  なんかオレの頭ん中って。  最近、奏斗のことばっかだな……。    はー、と静かに息をついて。  とりあえず、ノートに文字を移し始めた。   ◇ ◇ ◇ ◇  ゼミの時間。  ――――……唯一、奏斗と同じ授業。  モヤモヤし続けていたので、何となく早足で歩くと、奏斗と、階段の所で鉢合わせ。 「あ」  ふ、と笑う奏斗。 「食堂来てた? 見なかったけど」 「あー……行かなかった」 「別のとこで食べたの?」 「ん」  そうなんだ、と笑ってる。 「今日久しぶりにご飯たべに行くって。さっき椿先生が言ってた」 「ああ。行きますか?」 「うん。だってほぼ強制じゃん。考える余地ないだろ」  クスクス笑って言う奏斗。 「そうですね」  笑い返したところで、教室に到着。  ゼミの教室は四角になるように配置された長机。大体、一年と二年で何となく分かれて座り、先生が真ん中に。空いてる所に先輩達。別に決められている訳じゃないが、そんな感じでいつも同じ。  教室に入ると、自然と奏斗は二年の先輩達の所に向かうし、オレは一年の所に座る。  奏斗は、楽しそうに笑ってて。  ――――……元気で明るい。  知らない男に抱かれたり。  泣いてたり。丸まって座ってるとか。……そんなことしてるなんて、誰も想像しないだろうなと思ってしまう。  ……オレだって、ラブホに入ってくとこで会うまで。  ずっと、そう思ってた。 「まだ先生来ないかな」  奏斗の声。 「五分位あるから大丈夫じゃねえ?」 「トイレ行ってくるー」  言うと同時に立ち上がって、急いで出て行った。   「……飲み物買ってくる」  言いながら立ち上がって、んー、とかいう声に視線だけ送って、教室を出て、トイレへ向かう。 「四ノ宮もトイレ?」    奏斗が手を洗いながら振り返った所を、ぐい、と引いて、個室に連れ込む。 「え? なに――――……っっ」  びっくりした顔を、おさえて。 「……ン……」  唇を重ねて。  すぐに深く。キスする。 「…………っ……」  奏斗から、は、と熱い息が零れて。ぞく、とした感覚が、体の奥から、浮かぶ。 「も……っ馬鹿……!!」  ぐい、と引き離される。 「っゼミだって、これから……!」 「――――……どういう意味?」 「……っ力、抜け……」  意味が分かると同時にぐい、と引き寄せて抱き締める。 「――――…………っ?」  あー。なんか。  ――――……すげえ、めんどくせえのに。  なんでこんな、可愛いんだろうか。

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