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第200話「面白くない」*大翔

 ――――……椿先生が合宿について話してるのを、配られたプリントを見ながら、聞く。  皆が下を向いてるのを良い事に、ちら、と奏斗に視線を向けると。  敏く気づいた奏斗が、キッとオレを睨む。 『お前、次これ学校でしたら、絶交するからな!!』  さっき、トイレで最後に、小声で叫ばれた言葉。  ……絶交って……。  なんかこないだも言われたような。  交流を断つってことだから、別に使っちゃいけない訳ではないが。  子供の喧嘩で使われる奴だよな。  ……すっげーキレられた。  そう思うのだけど。  なんか、笑いがこみあげてきて、オレは口元を右手で隠した。  何か。  ――――……奏斗が、オレの側で。オレのことしか、考えられないみたいにするのが。……なんかすげぇ、楽しいのかもしれない。 「毎年だけど、現地集合、現地解散だから。集合には遅れないように」  そう言って顔を上げた先生が、ふとオレに気付いたらしく。 「四ノ宮くん、何か楽しいことあった?」 「……いえ」  笑ってんのバレたか、と顔を引き締めていると、先生は、ふ、と謎に微笑んで、話に戻る。皆一瞬オレを見たが、すぐにちょっと笑いながら、またプリントに戻ってる。奏斗だけ、むー、とオレを見てる感じが分かったので、視線を流すと、ますますムッとした顔をして、肘をついてプリントを自分の顔の前に立てて、オレから隠れた。 「――――……」    笑ってしまいそうになる。  また先生にツッコまれそうなので、我慢するけど。  ……外見は可愛いけど、中身めんどくせえし。  めんどくせえけど――――……全部、可愛いとか……。  ……奏斗に言ったら。  奏斗は――――……どうするんだろ。  また、意味わかんないって。  宇宙人って。  ――――……言われんのかな。 ◇ ◇ ◇ ◇  ゼミが終わって、居酒屋に来た。  畳の席、長机にばらける。  決まってるのは、椿先生は真ん中あたりに座り、その周辺が、三、四年の先輩達。あとはもう、店に入った順というか、適当。  真ん中に座ってる人達はアルコール可、奏斗たちの学年は、誕生日が早ければ大丈夫な人も居て、オレの代は、もちろん全員禁止。  時間が経つにつれ、大体真ん中の人達だけがうるさくなっていく気がする。  ……椿先生は、どんだけ飲んでも、酔わないのが、毎度なんとなく嫌だ。  今日は奏斗は、真ん中辺に座ったみたいで、まあ……。  ひたすら可愛がられてる感じ。  色々聞かれて、答えて。先輩達は?なんて聞き返して。  まあ、ひたすら、楽しそうにしてる。  さっき、ゼミを終えて、学校からここに来るまでの間に少しだけ話した。 「さっき、ごめん」  そう声をかけた。  ――――……なんかゼミ始まってしばらく、なんかちょっとやばそうな顔してたし。  ……とりあえず人前に出る時、感じさせんのはやめようと思って。  まあそれ言ったら、またキレられるから言わなかったが。 「……それほんとにごめんて思ってる?」  じとー、と見上げられる。 「思ってる。ごめん」  そう言うと。しばらく見つめられたけど、その内、ん、と頷いた。 「ほんとに思ってるなら、いいけど。……もう、しない?」 「――――……人がいるとこではね。しない」 「………………んん?」  オレの返答に納得がいかなかったのか、奏斗は眉をひそめて、オレをじっと見つめる。  なんかものすごく何か言いたげに口を開きかけた瞬間。 「店入ろうぜ、ユキ」  相川先輩達に、奏斗を奪われて、連れていかれてしまった。 「――――……」  超、不満げな顔、してたな。  ふ、と笑ってしまう。 「なあ、大翔はどうする、合宿」  不意に聞かれて、聞いた本人に視線をむける。  ……あんまり聞いてなかった。 「……どうするって?」 「だから、どうやって行く? 一年四人で車借りる?」 「あぁ……オレ今ちょっと考え中。も少し待って」 「考え中って?」 「んー。別で行くかもしんない」 「えーそうなの? 大翔くんも一緒にいこうよー」  女子二人がそう言う。 「んー、ごめん、まだ分かんなくて」  そう答えながら――――……。  奏斗と行きたいけど。と、考えてる自分。  ちら、と奏斗に視線を流すと。  ――――……酔っ払いの先輩に、肩を組まれて、なんか話されている。  ゲイとか全く関係なく、酔っ払うとああやって人に触れる奴が居るのは認識しているが。  何だかものすごく面白くない。  何でもいいから話振って、邪魔しに行くか。  ……そんな考えが、浮かぶ。  

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