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第205話「意味不明」*奏斗

「明日、何時?」  そう聞かれて、むむ、と口を閉ざす。 「……なんで四ノ宮がオレの弟の応援に行くの」 「真斗が来てって」 「真斗って呼ぶなよ」 「真斗で良いって本人が言ったでしょ? 聞こえなかった?」 「……っ」  聞こえたけど!!  ……っ何で、もう、真斗ってば、もう……!! 「こないだと同じとこなんでしょ。車で行こ?」 「――――……」 「で? 何時?」 「……」 「何時? 奏斗」 「――――……十時半から、試合……」  なんか黙っててもこのまま続きそうだから、諦めて、伝えた。 「ん、分かった」  隣でご機嫌で頷いてる。  一緒にマンションのエントランスに入って、エレベーターに乗り込む。  ……なんか、ほんとに、なんていうか……。  そもそも、ここまで一緒で、部屋が隣っていうのが、絶対的におかしいんだよ。隣じゃなければ、じゃあなって言って、家の前で別々になれるのに。  エレベーターの個室で二人きり。  オレは、じっとり、四ノ宮を見上げた。 「……お前って、オレ以外に用事ないの?」 「――――……何それ、オレが暇だからあんたと居ると思ってんの?」 「……」 「ほんとは色々忙しいけど、一緒に居るんだけどな……」  ちら、と見られてそんな風に言われて。  別に頼んでないし……と言いたいのだけど、言っていいものか悩んでいると。 「大体、オレが本当に暇だとしたって、あんたと居ない選択肢だって、オレにはあるって、ちゃんと知っといてもらえます?」  溜息とともに、そう言われる。  ……ンなこと言ったって。  朝から寝るまで、ずっと一緒なんだからさ。  ……お前が暇すぎて暇すぎてどうしようもないからオレで暇つぶししてるのかなって、そう思ったって、しょうがないじゃん。  と、心の中で思ってしまう。  言っても、別の答えがきっと返ってきそうだから、これは言わないでおくけど。  エレベーターを降りて、各々の部屋の前に立った。 「シャワー浴びて、寝る準備できたらおいでよ」  にっこり笑って言う四ノ宮に、「やだ。一人で寝る」と言うと。  また呆れたように何か言われるかなと思っていたら。 「オレね、今日、ある人とランチしたんですよ」 「……ああ、女の子? 一緒に居た?」 「違うし。別にあの子と二人で食事しようなんて思ってないし。購買行こうとしたら買うものがあるって言うから一緒に居ただけ」 「――――……」  ふうん。……まあ別に、それはどっちでもいいけど。 「女の子じゃなくて、奏斗がよく知ってる人」  ……??  意味が分からん。オレがよく知ってる人と、四ノ宮がランチ。  誰だろ。居たっけ、共通する知り合い……。 「誰だと思う?」 「……分かんないよ。ていうか、オレ、別にお前が誰とランチしようと全然……」  そう言いかけた時。 「江川大地」 「え?」  えがわだいち?  だいち……大地?? 「――――……は? 大地? オレの後輩の?」 「うん」 「……知り合い……?」  ……いや、ンなはずない、だって昨日そんなこと言ってなかったし。  え。どういうこと? 意味不明すぎるんだけど。 「え、何で?」  聞くと、四ノ宮はにっこり笑うと、オレをまっすぐ見つめてから。 「話聞きたかったら、寝る準備したらオレんとこ来て」 「――――……っ」 「じゃあね、後で」  この上なく、余所行きっぽい、にっこり笑顔で言って、部屋に消えていった。 「……っっ」  ……あー、もうムカつくんだけど……。  プルプル震えそうになりながら、カギを開けて、中に入る。  オレが、気になって、絶対話聞きに行って、まんまと一緒に寝ることになるだろうって、思って、それであんな顔で、にっこり笑うとか。  絶対行くもんか。  今度、大地に聞くから良いもん。  なんなら今から大地に電話して――――……。  ……電話して、なんて聞くんだ。  あいつ、大地に何言った……?  ――――……あーもう……。  これ以上大地に余計な情報も与えたくないし。  ――――……とりあえず、風呂入ろ。  湯舟入れて。めちゃくちゃゆっくり浸かって考えよう……。        

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