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第209話「助ける?」*奏斗
もう、どうして、避けられないのか。
――――……キスに慣れて、なんて言われたけど。
本当に、慣らされたような。この一週間で。
四ノ宮とキスすることが、普通になって――――……。
「――――……っ……ン……」
絶対おかしいのに。……分かってんのに。
「……ん、ン」
塞がれて、舌を奪われて。
息も、奪われて。朦朧としてくる。
上あご、なめられると、びく、と震えるのが、自分でも分かる。
「……ふ、……は……」
「奏斗……」
すり、と頬をなぜられて。
ぞく、としたものに、震えると。
「……奏斗、ベッド、行こ」
「――――……」
……あ、寝るのか。
そう思って、ん、と頷いた。
ひょい、と立たされて、手首を掴まれる。
リビングの電気を消して、そのまま四ノ宮と寝室に。
……家、帰ろうと思ってたのに。
…………なんかもう、面倒くさいな、どうせ、帰してくんないし。
やりとりすんのも、面倒くさい。
「トイレは?」
「……いい」
言うと、寝室のドアを開けて、電気は付けずにベッドまで。
一緒にベッドに座らされて、そのまま、後ろから抱き寄せられる。
向かい合わせで抱きしめられるよりはマシ……と思って、後ろからなら、そのままに。
――――……こんなのおかしいっては、思うんだけど。
四ノ宮が手を伸ばしてリモコンを取って、小さなルームランプの明かりだけ、灯された。そのリモコンを戻してるのを感じながら、もう早く寝ちゃおうと考えていると、オレを抱きしめ直した四ノ宮が話し始めた。
「あのさ、今日、先輩に絡まれてたでしょ」
「絡まれ……? ……あ、隆先輩?」
「……ああいうの、嫌ではない?」
「あー……今日はちょっと近すぎて、嫌だった、かな……」
「じゃあ嫌ってちゃんと……言えなくても、少し距離を置くとか、トイレって言って逃げるとかさ、あるでしょ?」
「……そうなんだけど、肩組まれてると中々……ん??」
オレは、後ろの四ノ宮を振り返った。
「もしかして、ぶつかってきたのって……」
「……は? ……それ、今更?」
「――――……」
あ、あれって、わざとだったんだ。
「あのさあ……オレがあんなところで阿保みたいに転ぶわけ、ないでしょ」
「――――……いてっとか、言ってなかった?」
「そりゃ転んだ振りしたからね」
呆れたように言われて、黙ると、四ノ宮は少し笑う。
「……そういうとこは、鈍いね」
「――――……うるさいなぁ……」
だって。あんなの、わざわざ助けにくるとか、思わないじゃん……。
ん――――……あれは…… 助けに、来たのかな??
「なあ……あれって、わざとぶつかって、何しに来たの?」
「ん? ……絡まれてるから、助けにいったんだけど?」
「……そうなんだ」
「は? それも今?」
心底呆れられた声で言われて、ぐい、と体を倒されて、背をベッドに。
四ノ宮に上から覗き込まれてしまう。
「どんだけ鈍いの……」
クスクス笑われて、む、と口を噤む。
「鈍い……とかじゃなくてさ」
「うん」
「……あんなのを、助けにくるとか……思わなかったから」
そう言うと、四ノ宮は、オレを見つめながら。
「つか、オレは、いつでも、奏斗を助けに行ってる……と思うんだけどね?」
「――――……」
「助けてる、でしょ? いつも」
「――――……」
「これからも、助けるつもりだし」
「――――……」
なんと答えたらいいのか、全然分からない。
「……ああ、そうだ」
「――――……?」
四ノ宮は、オレの頬をぶに、と潰しながら。
「抱かれたくなったら、言って。いつでも抱けるから」
「――――……は???」
何をいきなり……。
眉をひそめていると、四ノ宮はオレの頬を離しながら、ため息。
「……抱いてないのは、あんたがまだ望んでなさそうだから。オレ、無理矢理はやだし。それだけだよ。……抱く気がなくなってるとか、そんなんじゃないからね」
「……っ何で、そんなの急に言うんだよ」
ほんとやなんだけど、意味わかんなくて。
そう思いながら聞くと、四ノ宮はまたまたため息をつく。
「いやなんか――――……ほんとに鈍いこと言ってるから、勘違いされたくないなと思って。……抱くとか言ってやっぱり抱かないじゃん、みたいな。そっちで考えられたら、むかつくなと、急に思っただけ」
「――――……」
もう、何かほんと、やだ、こいつ……。
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