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第210話「嫌じゃないけど」*奏斗

 後ろから抱き締められたまま。  もう、四ノ宮、意味が分からないので、寝たふりを続ける。  ……オレが抱かれたければ、抱く、だって。  ――――……宇宙人め……。  オレとそんなことして、ほんと……なんの得があんの。  さっき……和希がオレとやり直したいって言ったらとか、聞かれた。  ……言ったことは、本当。  もともと和希はノンケだし……。  オレとは親友だったから、もしかしたら少し後悔はしてるかもしれないけど……また付き合っても、どこかできっと、子供が欲しいとか、家族に紹介できない関係なんて、とか、きっと悩むんだろうし。そしたらまた捨てられるだろうって、どうしたって思ってしまう。  そんな心の状態で付き合ったって、うまくいくわけがない。  それにオレ、もう和希のことなんて、何とも思って、ない……し。  ……よりを戻すなんて、ある訳ない。  でも――――……オレが和希と、よりを戻したら。  四ノ宮は、良かったって言って、オレから離れるのかな。  ……オレに恋人ができるまでって、言ってたよな。  別に和希じゃなくても、オレが不特定多数とそんなことしなくなれば、それでいい、みたいなことも言ってたし。  ……あー。ほんと。  意味わかんない。  もう、寝る。絶対、寝る。  もう何も話さず、寝るんだ。  ぎゅう、と目を閉じているけど、なぜかそう思えば思うほど、眠れない。  ふ、と小さく息をついた。  ずっと静かで、四ノ宮が先に寝たかなと思ってたのに。  不意に動いた四ノ宮に、くるん、と逆向きにされて。  え、と思った瞬間に、唇が重なってきた。 「っん、ん……」  突然絡んできた舌に、声が、くぐもって、漏れた。 「……っふ」  息がまともに出来なくて、押し返そうとした手を取られて、ベッドに括られる。 「――――……ん、ン……ッ」  口の中、めちゃくちゃ優しく、触れられる感じ……。  その内、顎を押さえられて、より深くなる。  掴まれてた手は離されたけど、押し返そうとは動けなくて、四ノ宮の服を握りしめた。 「……奏斗」  呼ばれて、ふ、と瞳を開けた。 「――――……」  少しだけ唇を離して、オレを見下ろす、四ノ宮は。  ふ、と瞳を優しく、緩めた。  少し前まで、苦手で嫌だなと思っていた、作ったみたいな笑顔じゃなくて。  なんだか、ほんとに。  ……まっすぐ、見つめられて。  まっすぐ、笑って、くれてるような。 「――――……」  ドキ、と心臓が、揺れた。  ――――……? 「……またキスしながら、寝よっか……」  クスッと笑う唇が、何も言えないままのオレの唇にまた重なる。  四ノ宮の手が後頭部に回ってきて、ぐい、と押し付けられる。  逃げようもない、感じ。 「……んン……」  ――――……違うかも……。  逃げようもない、んじゃなくて。 「……ん、ふ――――……」  ――――……よく分かんない、けど……。      キスするの……本当に、嫌じゃない、のかも。  ――――……。  でも、やっぱりオレは――――……。  …………誰にも、執着なんか、したくない。    だからこれは、まずいって。  キスされながら、思ってた。

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