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第211話「寝起きに……」*奏斗

 ――――…………。  ふ、と目が覚めた。  もう、明るい。朝日っぽい光がカーテンの隙間から差し込んできてる。  ……もう何日目かよくわからないけど。  四ノ宮ん家だ。  ――――……またオレ、キスされながら寝ちゃった、のかぁ……。  ああもう。 ……思い出すと、また、すっごい、恥ずかしい。  何で、四ノ宮は、オレにキスばっか、するんだろう。  オレ――――……セックスできても、キスは嫌だった。  なんだろう、自分でもよく分かんないけど。  キスって――――……結構好きじゃないと、できない気がする。  ……って、体もそうだって人もいるんだろうけどさ……。  でも何か、顔、近づけて、唇触れ合わせて、舌とか息とか。  …………やっぱ、無理。  生理的に嫌悪がなくてセックスはできても、キスは無理。  ……できたら、したくないって、ずっと思ってたし、今も思ってるし。  ――――……四ノ宮は、別にできるのかな。誰とでも。  遊ぶ子とも、キス、するタイプか……。  ……キスうまいもんな。めちゃくちゃ経験ありそう。  ――――……つか。むかつくんだよなぁ……。  ……なんか、出来ないことねえの、こいつ……。  出来ないことないか、色々考えてみるんだけど、思いつかない。……あ、ますます、むかつく。  と、そこらで一度、我に返った。  ……朝いちから、何考えてんだ、オレ。あほか……。  はぁ、と力が抜けて。  向かい合うみたいに、抱き締められたままでいることに、余計疲れる。  ……無い。  普通、絶対、こんなこと無い。  少し動いて、四ノ宮を見上げた。  珍しく今日はまだ眠っていて、その寝顔を眺める。 「――――……」  ほんと、整った顔だなぁ、という感想。 「――――……」  意味が分からないことばかり言う、口。  今は、少しだけ、開いてる。  寝顔見ること、あんま、無いかも……。 「――――……」  寝てると、ちょっとだけ……可愛い、かな。 「――――……」  ……は。   …………何言った、今。  あー……もー。  だめだ。  なんかもう意味わかんなくて、悶々としてくる。 「――――……奏斗……起きてンの……?」  オレが視線を外して動いたからか、目を覚ました四ノ宮が、オレを呼ぶ。  眠そうに。 「……起きてる」  見上げて、答えると。  寝起きの、ぼんやりな顔で、でも、ふ、と笑う。 「はよ、奏斗」  ……近すぎる、その笑顔に、ものすごく退いてしまう。  ――――……なんなんだ、もう。  お前は、その、キラキラな感じを、なんだって、オレにずっと振りまくんだ。  まったく意味が分からない。  ていうかもう、四ノ宮の言うことって、ほんと、いつもいつも意味が分からない。   「……起きて、ごはん食べて、行く準備しよっか」 「――――……ほんとに、一緒に行くの?」 「行くよ。……ああ、そういえば。誰に会いたくないの? 今日」  覚醒してきたらしい四ノ宮が、オレを見つめながら、聞いてくる。 「……オレの高校も、勝ち進んでるみたい」  そう言うと、四ノ宮は、ああなるほど……と、頷いた。 「――――……奏斗が三年の時の、一年か。じゃあ、知り合いだ」 「……まあ、そう……」  そうなんだけど、そいつらはきっと、試合で忙しいだろうけど……。 「ああ、もしかして、卒業した人たちも、応援に来たりする?」  ……鋭いなあ。ほんと。 「……和希も、来たりする?」 「――――……分かんない」  本当に分からないので、そう答える。  結構大きな大会だから、特に卒業した年の先輩たちは来ていた。  オレ、去年は行かなかったから、皆がどうしたかは知らないし。二年目の今年どうするかはますます分からない。大地の学年は、行きそうな気がするけど……。 「大丈夫だよ」 「――――……」 「一緒に行って、たとえ誰かに会っても、連れて帰ってあげるからさ」  ――――……なんだかなあ。 「……四ノ宮に、何のメリットが、あんの?」 「メリット?」  繰り返してから、四ノ宮はオレを見つめて、苦笑い。 「人と付き合うのに、メリットとか考えんの、オレっぽいけど。奏斗は考えないよね?」 「――――……だから。お前的に、だってば。……お前になんのメリットがあって、すんの?」 「あぁ。オレ的にか……。んー……メリット……」  少しの間考えてるっぽく、うーん、と唸ってた四ノ宮は。 「……別にメリットないかな」  そう言って、笑う。 「メリットも無くて、オレがこんなにしてあげるってことが、もしかしたら、すごいことかもよ」 「……何、それ」 「さあ……まあ、好意は受け取っといたら?」 「好意なの?」 「まあ。そこは好意、じゃないかな。 悪意なんか、ないよ」  四ノ宮は、おかしそうに、クスクス笑う。    

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