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第213話「ノリノリ」*奏斗
少し車で話してから、試合会場に直行。無事、特に誰にも会わず、観客席まで来ることができた。
真斗とオレの高校は、別のとこだって言ってたから、試合中だけはとりあえず誰にも会わないだろうし、ひとまず安心。空いてる席に腰かけると、ふと、四ノ宮がオレを見た。
「なんか今日の奏斗の服装ってさ」
「ん?」
「ボーイッシュな女の子にしか、見えないね」
「……ん」
……わざとだけど。
これで四ノ宮に隠れとけば、ただのカップルみたいに見えるかなーという意図がオレの中にたくさんあったので、特にそれ以上は答えなかった。
「そういうカッコ、好き?」
「……まあ。可愛い服は、結構好き……かな」
「似合う」
クスクス笑って言われると。
何が言いたいのかなーと、つい思ってしまう。
「あ。真斗、居たね」
四ノ宮が完全に真斗呼ばわりしてることにも、ちょっぴりは引っかかるのだけれど。コートに視線を向けると、シュート練習中の真斗を発見。
ちょうどその時、真斗が観客席の方を見たので、手を振ってみるけど気づかない。すぐに、横で四ノ宮が大きく手を振りだすと、それに気が付いたみたいで、真斗もこっちに向けて手を挙げた。そこで練習時間終了の笛が鳴り、一度選手達が、コートを出ていく。
「――――……」
「何?」
じっと見上げると、四ノ宮がクスクス笑う。
「だから、何で、お前はそんなにノリノリなの……」
「ノリノリってわけじゃないけど」
はは、とおかしそうに笑いながら。
「奏斗の弟だし。なんか、結構信頼されてる気がするから、少し可愛く見えてきてるかも」
本気なのか何なのか、クスクス笑ってそんなことを言ってる四ノ宮に呆れる。
真斗って、結構、冷めてるというか、大人というか。
……オレのせいかもだけど。
誰かに頼るとか、普段もあんまりしないし。
……オレのことを、こんな、真斗がよく知らない奴に頼むとか、そんなことしなそうなのに。
……何で、四ノ宮のこと、ちょっと特別なんだろう。
今度話す時、聞いてみよう。
四ノ宮のことなんか、胡散臭いって、一番真斗が言いそうなのに。変なの。
やっぱり、こういう、するりと王子モードで人に取り入る……って言ったらアレだけど。
……そういうとこ、すげーうまいんだろうなあ……。
そういうのも、怖いなと思っていたのだけれど。
……いつのまにか、怖くはなくなってる。
――――……でもずっと、よく分かんない奴ではあるけれど。
「今日勝ったら、次の試合は?」
「……ん、ああ、分かんない。午後あるのかなあ」
「来週になっちゃったら、ゼミ合宿だもんね」
「まあそしたらしょうがないけど」
そっか、と四ノ宮が頷いてる。
「……そっちも、四ノ宮、試合見るの?」
「え、もう、ここまで来たら、勝ち進む限り応援するけど」
「――――……あ、そう……」
……なんかちょっと可笑しくなってきた。
苦笑が浮かんでしまう。
「あ、飲み物買ってくれば良かった。――――……急いで行ってくる。何飲みたいです?」
「あ、オレ行く?」
とっさに言うと、は? という視線。
「一人でウロウロするつもり?」
「えっと……じゃあ、なんか、ミルクティーぽいの、お願いします……」
わざわざ四ノ宮に隠れてきたことも嫌って程分かってるのに、ついつい言ってしまった。
思わず敬語でそう言い直したら、四ノ宮は、ぷ、と吹き出して。
「了解。待ってて」
立ち上がって、通路の階段を上っていく。
なんとなくそのまま見送っていると。すれ違った女の子たちが、四ノ宮を振り返って何か言ってる。
「――――……」
……もう、あいつと居ると、日常茶飯事な光景。
どこでも目立つし、見られてるし。
…………オレも、よく声かけられるし、モテてきた気はするけど。
ちょっと、あいつは別次元。
今までもそうだったろうし。
これから先も、あんな感じで、ずーっと生きてくんだろうけど。
でも、見た目を好きって言われるのも、むしろ、嫌がってるっぽい感じするし。
ぱっと見で好かれるっていうの、良い気もするけど……四ノ宮を見てると、微妙そうな気もする。
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