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第214話「変な運命」*大翔

 何だかな、何も考えず、オレ行く?って。  ……気にしてんのかしてないのか、よく分かんねえな。咄嗟に出た言葉なんだろうけど。  会場を出て見回すが、自販機は近くにはなくて、結局、売店や受付があるところに戻ることになった。  何人かが自販機の前に居て、話しながら買っている、その後ろに立つ。  奏斗はミルクティーって……こっちにしかねえか。  自販機はいくつかあるけど、結局、前の列に並ばないと……。  始まっちまうかな。まあ少し位なら……。  時計を見ながらそう思っていた時。 「お前が遅れるからぎりぎりじゃん」 「はは、すみません。でも間に合いそうですよね」 「早く買えよ。試合始まるし」  ……応援にきてるっぽい数人の、なんのことはない会話なのだけれど。何かが引っかかって、前に視線を向ける。 「――――……あ」  見えた横顔に、とっさに声が出てしまった。  すると。え?と、振り返ったそいつは。  昨日、妙なランチタイムを一緒に過ごした……江川大地。 「あっれー!!?」  ……うるさい。気づかなきゃ良かった。 「もしかして、オレらって運命?」  そんなことを言いながら、オレを見て笑う。 「あほか、何だ運命って」 「うわ、またその感じ。……おかしいなぁ、お前は王子って聞いたのに」 「誰にだよ」 「昨日のランチの後、友達らに聞いた」 「何、聞いてんだ……」  なんかこいつに素が出せるのは一体……。  素、どころか、もっと柄が悪い感じになってる気もする。何でだ?  自問してると、江川と一緒の連中がジュースを買い終えたみたいで、何となく江川とオレの方を見ながら自販機の前を退く。ミルクティーとコーヒーを買いながら、後ろに立ったままの江川を振り返る。 「応援か?」 「そう。四ノ宮も? 自分の高校?」 「いや、オレは県が違うから」 「そうなんだ。じゃあ知り合いの応援??」 「……まあ、そう」 「ふーん、そっか」  そんな会話をしてるオレ達に、江川が一緒に居た内の一人が「大地」と呼んだ。はい、と江川が答えると、「先行ってるぞ?」と笑う。すぐ行きます、と返事をして少しだけ見送った後、江川がオレを見た。 「……四ノ宮」 「?」  不意にまっすぐな視線と、くいくい、と近寄るように手招きされて、思わず眉を顰めながら、近づくと。 「今の、先行ってるって言った人が、カズ先輩」 「――――……」  かず、せんぱ――――……。  理解すると同時に、パッとそっちに視線を向ける。  試合会場にちょうど入って行ったところで、見えなくなってしまった。  なんとなくの横顔と、さっき笑った感じしか残っていない。  興味もなかったから、なんとなくしか思い出せない。 「一個上の先輩たち、今日この後遊びに行くらしくてさ。カズ先輩は引っ越しちゃってて知らない学年なんだけど、一緒に来たんだって」 「――――……」 「見えた? 今」 「なんとなく」 「――――……さっき待ち合わせて来る時も、カナ先輩の話をしてた。まあ、先輩たち、皆がしてたんだけど。あいつどこに行ったんだ、みたいな……オレが会えたってのは、とりあえず言ってないから」 「……何で?」 「カナ先輩が嫌がってたから」  その言葉に、江川に視線を戻す。  ……まあこいつが、どういう意味でも、奏斗を好きなのは、本当っぽいな。 「……お前も今日、一緒に遊びに行くのか?」 「いや? 先輩たちは連絡取り合ってたけど。オレは特に」 「……出来たら行ってこいよ」 「は???」  ものすごいびっくりした顔で、江川がオレを見る。 「和希がなんのつもりか聞いて来いよ」 「はー--??? 何それ、スパイかよ」 「奏斗のためだろ。大体お前のせいでもあんだろ、別れたの」 「……ぐ…………お前、すげーやな奴って言われない?」 「言われたことない」  ふん、と笑って見せると、ものすごい嫌そうな顔をして、江川がオレを睨んでいたけれど。 「――――……もしかして、今日、カナ先輩と来てる?」 「……来てる。奏斗の弟が別のコートで試合」 「お前って、何かほんと、いつもカナ先輩と居るの?」  まあ。……そうかもしれないが。 「別に……オレが無理やり居るだけかも」  そう言うと。  江川はきょとんとしてオレを見て、あは、と笑い出した。 「おっもしろ……」  何やら、めちゃくちゃウケて笑ってから。 「うーん……連れて行ってもらえたらね」  江川がそう言って苦笑いを浮かべているので、「がんばれよ」と一言告げると。 「心こもってる? それ」 「こもってるけど? 絶対行けって思ってる」 「――――……はー……ホント。何なの、お前……」  すごく嫌そうにオレを見てから、すぐに、ニヤと笑う。 「オレらが体育館出たら、カナ先輩に、オッケーメッセージ送るから。そしたら、帰れば? 会わせたくないだろ?」 「――――……気が利くな、お前」 「はいはい、それはどーも……あー、もう試合、絶対始まってるし」  苦笑いしながら、じゃあなー、と江川が離れていく。  確かに――――……変な運命、はある気がする。  変なとこで、続けてよく会う。

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