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第215話「可愛いイコール」*大翔

 ……にしてもよかった。  さっき、奏斗に飲み物を買いに行かせたら、マジで鉢合わせだった。  心が、なんだかヒヤリと冷えるみたいで、ふぅ、と息をつく。  ――――……来てること、……言おうか。言わないか。  奏斗は今も、和希が好きなのか。ただ、トラウマの相手なのか。どっちなんだろう。  もう一度付き合っても、別れる未来が浮かんじまうようなこと言ってたけど、それはただ、臆病になってるだけで、別に、付き合いたくないって言ったわけじゃない気がする。  嫌いだとは、聞いたことがない、よな。  ――――……ほんとは、会いたい、んだろうか……。  会場に戻ると、もう試合は始まってしまっていた。  ゆっくり階段を下りてると、奏斗が振り返った。あ、来た、という顔で、パッと笑顔になる。足を速めて、奏斗の隣に腰かけると、奏斗がオレを見つめる。 「今始まったとこ。自販機混んでた?」 「……ん、はい、ミルクティ」 「ありがと。後で払うー」 「いいよ」 「試合終わったら」 「いいってば。その代わり、オレと昼ご飯食べようね」 「昼奢れってこと? いーよ」  クスクス笑ってる。  そんなつもりで言ったんじゃないんだけど。まあ、楽しそうだからいっか、と黙る。  コーヒーを一口飲んだ瞬間、ワッと歓声がして、コートを見ると、真斗がディフェンスをかわして、攻めるところ。 「おー」 「がんばれ、真斗」  奏斗が言ったその時。もう一人をかわして、きれいなシュートが決まった。 「真斗、いいぞー!」  でかい声で言ったら、真斗が一瞬だけこっちを向いて笑った。 「四ノ宮、なんでオレより先に、オレよりでかい声なわけ??」 「だって今、すごく良かったじゃん」 「そーだけど」  むー、とちょっと膨れてる。 「何、オレの弟なのにとか、思ってる?」 「……別に、思ってないけど」 「ちょっと思ってるでしょ。はは。ちょっとブラコン?」 「……うるさいなー、何なわけ」  ぶつぶつ言いながら、オレから視線を逸らしてる。  ――――……家族で唯一、ゲイの奏斗をちゃんと受け入れたのが、真斗なんだろうから。しょうがないか。……弟が大好きでも。  家だったら、なんとなく撫でてる気分だけど。  ここでは変なのは分かるので、我慢した。 「――――……」  和希が居ること……黙ってていいのか。  ――――……言ったら、惑わせちまうかな……。  でもなんか――――……居るの分かってるのに、言わないでいて、いつかここに居たことが分かったら。  ……あーでも……。奏斗は何も言わないか。  ……奏斗がそれを文句言わないなら、あとはオレの気持ちだけど……。  目の前で良い戦いを繰り広げている二校。  真斗は完全にエースだな。すごいマークされてる。  何で奏斗はこんな可愛い感じで、真斗はあんな感じの……何なら精悍な感じのイケメンなんだろ。  全然似てない。そういや、最初は、抱かれる相手だと勘違いしたっけ……。 「奏斗と真斗って、あんまり似てないよね?」 「うん、そうだね。真斗は父さんに似てる。オレはねぇ……母さんの弟に似てるんだよね」 「へえ……」 「おじさんを知ってる人は、おじさんにそっくりだってよく言ってくる。まあ、もちろん、母さんにも似てるのかもだけど」  あはは、と笑ってる奏斗。  ふうん。似てるおじさん、ね。でも母親にも似てるんだ。ふーん。 「……じゃあ、奏斗のお母さんは、可愛い感じなんだね」  自然と漏れた言葉に、試合を見ながら話していた奏斗が、ぱっとオレを見つめた。 「……ん? 何?」 「何じゃないし……オレが、それに頷けっての??」 「ん? ああ……まあ。……変な質問だった?」 「変でしょ」  呆れたように言って、奏斗は、試合に視線を戻す。  ――――……まあ。確かに。  「奏斗は可愛い」イコール「奏斗と似てる」イコール「奏斗のお母さんも可愛い感じ」……っていう思考をたどったってことか。  ……つか、無意識だったな、今の。  そんな自分に、なんだか色々ひっくるめて、でもまあ、そう思ってるしな、とも納得してしまう。

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