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第217話「ムカつく」*大翔

 しばらく、そのままの状態で試合を見ていた。  普段だったら手を握ったまま試合なんて見るはずもない。  オレにつかまっているそのことにすら気づいてないみたいで、心配になってしまう。  真斗がシュートを決めて、奏斗が少しだけ笑顔になった時になってようやく気付いた。 「あ。ご、めん。オレ、ずっと掴んでた……?」  奏斗がそんな風に言いながら、そっとオレから手を離した。 「つかまってても、いいよ?」 「……ううん、平気」  ……全然平気そうじゃないのに、そう言って、少しだけ笑って見せてくる。  そんなオレ達の視線の先で、試合はハーフタイムに入った。 「奏斗」 「ん……?」 「さっき、あいつ、試合が終わるまで待ってるって言ってたけど」 「――――……」 「奏斗は、話したい?」 「――――……」  まっすぐオレを見て、首を振る。 「少しも、話さなくて、後悔しないの?」 「――――……しない」 「ほんとに?」 「……謝られても……万一もう一度とか……どんな話にしても……もう全部、今更だし。話して良いことなんて、無いから……」  奏斗の言いたいことは、分かるけど。 「なあ。聞いて?」 「――――……」  オレの言葉に、奏斗がまた顔を上げる。   「話して、すっきり終わらせるって、手もあると思う」 「――――……」 「謝られるなら分かったって言えばいいし。本当にもう一度、なら、ふざけんなって言えばいいし。……じゃないと、ずっと他の友達にも会えないままだし」 「――――……」  じっとオレを見つめていた奏斗は、軽く唇を嚙んでから。  それでも、首を振った。 「オレ……もう会えないかもって、覚悟――――……してる」  はー。なんか……。  ――――……ムカつくんだよなあ、マジで……。  この人みたいな人が、部活の友達と縁切って、とか……無理してやってるのも、分かってるのに。  覚悟してるとか。  そんな、ただ逃げてるみたいなことしてるのも――――……結局、奏斗があいつに縛られてるみたいで、正直、オレが、ムカつく。……でも。 「……奏斗」 「――――……」 「……奏斗が本気でそれで良いなら」 「――――……」 「本当に良いなら、オレが、あいつに言ってきてやる。待つなって」 「…………」 「自分で話すのが嫌なら、今すぐ、言ってくる」 「――――……頼んで、いいの、そんなの」 「いいよ」  しばらく迷ったような顔をしていた奏斗は、その内、まっすぐオレを見上げた。 「……頼む」 「――――……分かった。待ってて」 「あ、四ノ宮」 「ん?」  立ち上がりかけてたオレは、呼ばれて、奏斗を見下ろす。  少しだけ黙って――――……それから、奏斗は、言いにくそうに、口を開く。   「……オレの、こと……言わないで?」 「……奏斗のことって?」 「…………クラブのこととか」  分かった瞬間、更に怒りが湧いたけど――――……奏斗には見せずに、頷いた。 「もちろん。余計なことは、言わねえから心配しないで」 「……うん」  頷いた奏斗を置いて、立ち上がると階段を上る。  クラブのことって。  ……不特定の奴と、そーいうことしてたの。あいつに、知られたくないのか。  ……つーか、あいつのせいじゃんか。  ほんとなら、全部ぶちまけて、お前のせいだって言ってやりたいとこだけど。  ……あんな、泣きそうな顔されたら、言えるわけがない。

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