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第220話「ほっとする」*大翔
奏斗のもとに急いで戻ると、奏斗は俯いたまま。両手を握っていた。
「奏斗」
オレの声が聞こえると同時に、オレを見上げる。
「大丈夫。今日は、もうこっちに来ないから」
とにかくそれだけを先に伝えると、奏斗は、心底ほっとした顔。
「ありがと……」
そう言って、また少し俯いた。
「俯くなよ。顔あげてな」
「――――……」
頬に触れて上げさせて、まっすぐ見つめる。
少し驚いた顔でオレを見たけど、ん、と少し微笑んだ。
それを見て、オレも、自然とほっとして、顔が緩む。
「……少し話したことは、後で、奏斗にも話すから。まあ……大体予想の範囲内だった」
「……うん」
奏斗はオレを見つめて、ゆっくりと頷いた。
少し唇をかみしめるのは――――……そうしてないと、居られないのかなと思うと……なんか、キスして、解きたくなるけど。
ここじゃ無理。
ふ、と息をついて、奏斗の隣に腰掛ける。
すると、少ししてから、奏斗がオレを覗き込んできた。
「……ごめん、四ノ宮」
「――――……何が?」
「……なんか、迷惑ばっかりかけてる気がする」
「……迷惑ていうのとは違うような……。オレが勝手にやってることだし?」
「――――……」
奏斗は、きょとん、としてオレを見て。
それから、少し微笑んだ。
「確かに、そうかも……」
クスクス笑うその様子に、少しホッとする。
「ほんと……変なの……」
笑み交じりにそんな風に言われても、全然嫌ではなくて、むしろ嬉しい気がするとか。……確かに本当に、変な気も、するが。
「……奏斗」
「……?」
「……オレ、ずっと居るから。平気だよ」
「――――……」
ただただ心底そう思って、そう伝えたら。
少し驚いたような顔でオレを見つめたまま、なんだか奏斗の瞬きが増える。
「…………ん」
言葉はほとんど発さずに、奏斗が、少しだけ頷いた時。
ハーフタイムが終わって、真斗たち選手がコートに出てきた。
「頑張れよ!」
オレが、大声で言うと。
奏斗もすう、と息を吸って、「真斗頑張れ!」と大きな声を出した。
よかった。なんか。大きな声を出せて、と、密かに思った時。
「……声出したら、ちょっとスッキリした」
奏斗がそう言って、ぱっと見はとりあえず、いつもと変わらない笑顔で笑う。
「……そっか」
それだけ答えて、笑って見せると、うん、とまた笑顔。
――――……今日、本当に、一緒に来てよかった。
奏斗と一緒に、真斗を応援しながら。
頭にあるのは、和希のこと。
……ずっと好きだったってことだよな。
そんなのあいつの勝手で、オレから見れば、ただの自分勝手で。
……やっぱり好きだって気づいた時点で、奏斗のもとに戻ったならまだしも……奏斗がまだ引きずってるからって会いに来たとか、そんなの――――……。
……ああ、でもどうなんだ。
ひきずってるのが分かったから、謝って、それを、どうにかしないとっていう、そっちの思考も、分からなくはないが。
「――――……」
……やっぱり、気づいてすぐに戻ってやらなかったなら、もう、奏斗に関わるなと、オレは思う。それは、その後の奏斗が、どう過ごしていたかも知ってるから、余計だ。
でも……これは、当事者同士が決めることで――――……。
そこをオレが決めることは、出来ない、気が……。
奏斗が会いたいと思うなら会って。
……もしそれで、和希の気持ちを嬉しいと、もし思うなら……って話か。
隣で真斗を一生懸命応援してる顔に視線を流しながら。
――――……そんなの、死ぬほど、ムカつくとか。
すげえ思うけど。
(2022/9/29)
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