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第222話「伝言」*大翔

  食事の後、少し買い物をして帰ってきて、マンションの駐車場についた。  その間は和希のことには触れず。車で二人になっても触れてこなかった。  奏斗が触れてこないなら、と思って、オレからは何も言わずにここまで帰ってきた。  駐車して、エンジンを切って、シートベルトを外す。 「ついたよ?」 「ありがと……」  奏斗もシートベルトを外した。 「オレん家でコーヒー淹れてくれる?」 「うん、淹れる」  今日は、行かないって、さすがに言わないんだなと思いながら車を降りる。奏斗が降りるのを待って車に鍵をかけて、エレベーターに乗りこむ。 「……もう、考えた?」  そう聞くと、奏斗はオレを見上げて、うん、と頷いた。  オレも小さく頷いて、電光掲示板の階数を追う。  ――――……考えたのか。そっか。  ……よりを戻したいって言われたら? ……それが一番、聞きたい。  どう、考えたんだろう。  気は急く。けど焦ってもしょうがない。すぐに和希に連絡を取って、どうにかするってこともないだろうし。とは思うけど。  部屋の鍵を開けて、奏斗と中に入る。  先に手を洗って、買い物してきたものを片付けていると、奏斗が来て、コーヒーの準備を始める。 「奏斗、甘いものとかいる?」 「今はいいかな……。コーヒー甘くしていい?」 「オレのは甘くしないでくれれば」 「分かってるよ」  クスクス笑いながら、奏斗がオレを振り返る。  普通の笑顔。  ――――……少し前に、連絡先を聞いてたって真斗に聞いた時は、本当にすごく狼狽えてた。さっき、和希が突然目の前に現れた時は、ほんとに、どうしようかと思ったけど。  思ったよりは、大丈夫、なのかな……?  震えていたし、強張って緊張してはいたけど。  ――――……わりと、いつも通りの奏斗を保っては、いる……のか?  どうなんだろう、心の中は、よく分からない。  話を聞けば分かるか……。   奏斗がコーヒーを淹れ終えたタイミングで、二人でテーブルに座る。  もちろん隣で。  それも今はツッコんでは来なかった。  一口、コーヒーを飲んだところで、奏斗がオレを見た。 「……色んなの考えたから……大丈夫。聞かせてよ」  奏斗を見つめて、オレは、どれから話そうかと自分の中を巡る。 「……奏斗はさ」 「うん」 「あいつが考えてること、知りたい?」 「――――……」 「……今更知りたくないっていうのを選ぶことも出来ると思うんだけど」  そう聞いたら、しばらく答えず。  かなり時間が経ってから、奏斗は、小さく頷いた。 「あんな風にわざわざ来て……何、考えてんのか…………少しは知りたい」 「ん、分かった」  そうだよな。  ……やっぱり知りたいんだよな……。  オレは、一度息を吸ってから、一言を口に出した。   「――――……謝りたいらしい」  まず、それだけを口にした。  正直、どこまで話すべきか、よく分からない。全部、オレから伝えるべきなのかもよくわからない。  奏斗次第だ。  謝りたいというのも、迷ったけど……奏斗が聞きたいなら、仕方ない。 「――――……謝りたい、って?……」 「……うん」 「……何を? 別に振ったことなら……それは、別に普通のことだし」  俯く奏斗に少し困るが……とりあえず、あいつに伝えてと言われたのは。 「あの時、バカでほんとにごめんって、言ってた」  それを言うと、奏斗は、オレをじっと見つめてから。  目をそらして、コーヒーのマグカップを両手でおさえた。 「……バカで、ごめんって……」  ……奏斗は、そう言って固まっている。 「それって――――……どういう意味か、聞いた?」 「……意味は正しくは聞いてない。ただ、奏斗に、それを伝えてだって」 「……」  しばらく無言だった奏斗は、うん、と呟いた。  うん、分かった、ともう一度、呟いて。 「あとは……?」  と、オレを見ずに聞いた。 「――――……話してくれる気になったら、電話してって。番号は変わってないって」  今度は、何も口に出さず、奏斗は、小さく頷いた。 「話す気にならなかったら、電話しなくていいってことだから」 「……うん。……ありがと。分かってる」  奏斗はオレを見て、そう言うと、また小さく、頷いた。

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