219 / 542
第223話「あーもう……」*大翔
しばらくの間、カップを握りしめていた奏斗が、ふ、と気づいたみたいに顔を上げた。
「……オレ、連絡、しないよ?」
「――――……しないの?」
「……うん。謝りたいのは、分かった……まあでも……そういう人だとは思うから……予想通りというか」
言ってから、コーヒーを一口。
「……電話番号、分かるの?」
「消したけど……うん、覚えてはいる。覚えやすい番号なんだよね」
ふ、と奏斗が笑う。
「……でもかけないよ」
なんか――――……奏斗が、静か、過ぎて。
逆に心配になる。
気持ちを、抑えてるんじゃないかと。
「他は何か言ってた……?」
少し考える。
……電話をすれば聞くだろうし、本当に電話しないなら、言う必要のない言葉だと判断。
もう、ここで終わりにすることにした。
「そんなに長くは話してないんだよね。すぐ江川も来たし」
「大地、そこにも来ちゃったの?」
「……江川も、奏斗の所に行ったんじゃないかって思って見に来たらしい」
「……そっか。なんか色々面倒かけちゃったかな……」
……まあ。あいつ、今頃、もっと面倒なこと、してるかもしれないけど。
そこは、言わないでおこ。
「……謝りたい、か……」
奏斗がぽつん、と呟いた。
「――――……何がバカなんだろ。あの時バカって……オレと付き合ったことが、かなあ」
――――……は?
出た言葉に驚いて、奏斗をマジマジと見てしまう。
違うだろ。
……別れたことを言ってるに決まってる。
――――……付き合い始めたことをバカだったなんて、言ってる訳ないのに、そっちに頭が行くって……。
「……奏斗」
「……?」
「……あいつが、あんたを好きだったのは、ほんとだと思う」
「――――……え」
奏斗がびっくりしたような顔で、オレを見る。
……ああ、オレ、何余計なこと言ってんだ、と思うのだけれど。
「あんたのこと好きだったから、後悔して、謝りたいとか思ってるんだよ」
「――――……」
「付き合わなきゃよかったとか、絶対そっちにじゃないから。そんなこと、思うなよ」
「――――……」
奏斗の不思議そうな顔がだんだん真顔になっていって。
瞬きが、増える。
「あーもう……」
マグカップを握ってた手に触れて外させてから、腕を引いて。
抱き締めた。もう、本当に、腕の中にすっぽり。顔が見えないように、ぎゅっと。
「……無理しなくていいよ」
「――――……」
「あんたが泣くの、もう慣れてるし」
「――――……」
「……我慢されるとか、めんどい」
何か、自分のしてることも言ってることも、無性に照れくさくなってきて、ちょっと違うが言ってしまったそのセリフに、少しして、奏斗が笑った。
「何、めんどいって……ひどい」
笑ってるけど、でも、少し、震える声。
「――――……全部、隠さなくていいってこと」
そう言いながら、奏斗の後頭部をよしよし撫でると。
「……オレ、子供じゃない」
とか言うんだけど。
全然、起き上がろうとは、しない。
脇腹のあたりの服を握りしめながら、奏斗がオレの腕の中に収まったまま居ることが。
……やっぱり、全然平気じゃねえんだなという証みたいで。
漏れそうになるため息を堪えるのが、大変だった。
ともだちにシェアしよう!