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第223話「あーもう……」*大翔

 しばらくの間、カップを握りしめていた奏斗が、ふ、と気づいたみたいに顔を上げた。 「……オレ、連絡、しないよ?」 「――――……しないの?」 「……うん。謝りたいのは、分かった……まあでも……そういう人だとは思うから……予想通りというか」  言ってから、コーヒーを一口。 「……電話番号、分かるの?」 「消したけど……うん、覚えてはいる。覚えやすい番号なんだよね」  ふ、と奏斗が笑う。 「……でもかけないよ」  なんか――――……奏斗が、静か、過ぎて。  逆に心配になる。  気持ちを、抑えてるんじゃないかと。 「他は何か言ってた……?」  少し考える。  ……電話をすれば聞くだろうし、本当に電話しないなら、言う必要のない言葉だと判断。  もう、ここで終わりにすることにした。 「そんなに長くは話してないんだよね。すぐ江川も来たし」 「大地、そこにも来ちゃったの?」 「……江川も、奏斗の所に行ったんじゃないかって思って見に来たらしい」 「……そっか。なんか色々面倒かけちゃったかな……」  ……まあ。あいつ、今頃、もっと面倒なこと、してるかもしれないけど。  そこは、言わないでおこ。 「……謝りたい、か……」  奏斗がぽつん、と呟いた。 「――――……何がバカなんだろ。あの時バカって……オレと付き合ったことが、かなあ」  ――――……は?  出た言葉に驚いて、奏斗をマジマジと見てしまう。  違うだろ。  ……別れたことを言ってるに決まってる。  ――――……付き合い始めたことをバカだったなんて、言ってる訳ないのに、そっちに頭が行くって……。 「……奏斗」 「……?」 「……あいつが、あんたを好きだったのは、ほんとだと思う」 「――――……え」  奏斗がびっくりしたような顔で、オレを見る。  ……ああ、オレ、何余計なこと言ってんだ、と思うのだけれど。 「あんたのこと好きだったから、後悔して、謝りたいとか思ってるんだよ」 「――――……」 「付き合わなきゃよかったとか、絶対そっちにじゃないから。そんなこと、思うなよ」 「――――……」  奏斗の不思議そうな顔がだんだん真顔になっていって。  瞬きが、増える。 「あーもう……」  マグカップを握ってた手に触れて外させてから、腕を引いて。  抱き締めた。もう、本当に、腕の中にすっぽり。顔が見えないように、ぎゅっと。 「……無理しなくていいよ」 「――――……」 「あんたが泣くの、もう慣れてるし」 「――――……」 「……我慢されるとか、めんどい」  何か、自分のしてることも言ってることも、無性に照れくさくなってきて、ちょっと違うが言ってしまったそのセリフに、少しして、奏斗が笑った。 「何、めんどいって……ひどい」  笑ってるけど、でも、少し、震える声。 「――――……全部、隠さなくていいってこと」  そう言いながら、奏斗の後頭部をよしよし撫でると。 「……オレ、子供じゃない」  とか言うんだけど。  全然、起き上がろうとは、しない。  脇腹のあたりの服を握りしめながら、奏斗がオレの腕の中に収まったまま居ることが。  ……やっぱり、全然平気じゃねえんだなという証みたいで。  漏れそうになるため息を堪えるのが、大変だった。

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