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第224話「正解」*大翔
「ごめん、もう平気……」
奏斗が、少し離れて、そう言った。
まだ、笑顔がぎこちない。ぶに、と頬をつまんで、ちょっとつぶした。
「……オレの前で今更無理してもしょーがないでしよ」
言うと、少し黙った後、奏斗はゆっくり頷く。
「今更、かもね」
「だよ」
「……コーヒー飲みたいから、離して」
苦笑いでそう言われて、仕方なく手を離す。
コーヒーを飲みながら、奏斗は何かを考えてるみたいで。
しばらく、二人で黙ったまま時を過ごした。
――――……別に、気まずくはない。
奏斗がどうかは知らないが。
話さなきゃとか思うこともなく。
黙ってるならずっと黙ってても、気まずくならない。気を遣うこともない。
……すげー楽。
なんでだろ、もう色々知ってるし、知られてるから?
取り繕うとか、よく見せようとかそういうの無いからかな……。
「……あのさぁ、四ノ宮」
「ん?」
「……きっと、ダメって言われそうなんだけど」
「…………じゃあ言わなくていいんじゃない?」
なんだか分からないがそう返すと、奏斗は思い切り苦笑い。
「……でも言ってみる」
「……何?」
「ちょっと、自分ち帰って良い?」
「――――……」
またか。
そう来るかなとも、ちょっと思っていた。
いつも何かあると、一人で考えたいと言うから。
「一人で考えたいんだけど……」
「――――……考えるのは良いけど……うちに居れば?」
「和希に電話はしないよ? ただなんか――――……一人で、色々考えたいだけ」
「――――……ダメ」
オレがダメと言ったら、えっとびっくりした顔をする。
「……こんなに言ってもダメって言われると思わなかった……」
そう言って、ものすごい苦笑いを浮かべているけれど。
「奏斗、こういう時、一人にすると、暗く沈むだろ」
「……でもオレ、一人で考えたい」
「――――……オレの家で、一人にしてあげるから」
「でも……」
「ダメ、絶対」
「でも……」
という押し問答がしばらく続いた。
「……分かった。帰っていいよ。でも、夕飯、うちで食べて」
「――――……」
「それまでなら、いいよ」
その条件に、奏斗はしばらく考えていたけれど。
「……ん。分かった」
そう言って、頷いた。
コーヒーを飲み終えると立ち上がって、流しで洗い始めようとしてるから、オレがやるからいいよと言うと、少し間をおいて、ありがと、と頷く。
「じゃあ、帰る」
「ん。……すぐ戻ってきてもいいよ」
言うと、奏斗はオレを見て、苦笑い。
靴をはくと、バイバイ、と手を振って、玄関を出て行った。
手を伸ばして、鍵を閉めて。
――――……ため息。
ため息つかないようになんて、どんなに思っても、零れてしまう。
あー。帰さなきゃよかったかな……。
でも今日は、なかなかうんって言わなかったし。
……一人で考えたいっていうのも――――……分からなくはないんだよな。
オレは何か考えたかったら、一人になりたいから。他人が居るの邪魔。
だから分かるんだけど――――……。
あんまり無理ばかり通して、いざという時に嫌だと言われるのも、困るし。――――……夕方までならほんの少し。
仕方ないと思いながらも、やっぱり迎えに行こうかなと思う自分。
……馬鹿か、オレ。
ソファに座って、背もたれに寄りかかる。そのまま天井をぼんやり眺める。
――――……足乗せて、丸まるような座り方。
自分が無意識にしてるかどうか、考えてみるけれど。
……絶対してねえなと思う。
自然と、小さくなるみたいな。
――――……あれで今もいるのかなと思うと。
……やっぱり、いますぐ迎えに行きたくなる。
つーかこんなことうだうだ考えてること自体、正直、意味が分からないが。
…………何が正解か、分からない。
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