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第225話「夕方って」*大翔

 夕方って、何時からのことだっけ?   十六時くらいでもう良いか?   とにかく、早く夕飯作って、作り終えたら呼ぼう。  ――――……何が良いかな。  昼、パスタ食べたから、ご飯で……肉焼くか。  さっき買い物してきた中から鶏もも肉を出して、調理を始める。 「――――……」  いくら何でも夕飯を作り始めるの、早すぎると思うけれど、正直、他に何も手につかないから仕方ない。  隣なんて、この壁を越えたらすぐなのに、ものすごく遠く感じる。 「――――……」  こんなに、人のことが気になるなんて、生まれて初めてすぎて、何なのかよく分からない。自分のことなら割り切ることもできるし、感情もどうにでもできるのに、他人のことじゃそうはいかない。……ということを、初めて知った、ような気がする。  肉に下味をつけて、炊飯器をセットして、スープとサラダを作る。  ひととおり終えて、片付け終えたところで、ちょうど電話が鳴った。  ディスプレイを見て、思わず眉を潜めてしまう。 「葛城? ……何?」 『……出て早々、何なんですか。また何かありましたか?』 「別に。平気」 『……こんばんは、大翔さん。まあ、お元気そうですね?』 「ああ、元気。……で、何?」  要件を急かすと、葛城は苦笑い。 『再来週の水曜ですが、こちらに来られますか?』 「何で?」 『ずっと前にお話ししてありましたが……ご実家でパーティーがあります』 「……何のだっけ?」 『紳士服の会社の創立十周年のパーティーです』  そう言われて、ああそういえばと思い出した。 「十周年とかどうでもよくねえ? 二十も三十もやんの? 付き合ってらんねえんだけど」 『紳士服の業界に初参入して十周年ですからね。軌道に乗ってずいぶん経ちましたし、業界の方とのつながりも強めたいのもあるでしょうし、情報交換の場ですよ』 「…………やるのはいいとして、そこにオレ、必要?」 『大翔さんには、社のスーツを着て出てほしいんですよ。という話、前にもしましたけど』 「見世物かよって、そん時も言った」 『……私もその時も言いましたが、社のスーツを着せて立たせたいほど似合うということです。光栄じゃないですか?』  クスクス笑われるが、余計うんざり。 「全然出たくない」  そう言うと、葛城は、そうですか、と苦笑い。 『ああ、そうですね……』 「ん? 何?」 『雪谷さんを連れてこられたらどうですか?』 「……は?」 『来週どこかでお迎えに行きますので、スーツの採寸をさせてもらえれば、間に合わせて作らせます。ああ、大翔さんも測りましょうか。少しサイズが変わってるかもしれませんし』 「……奏斗に聞いてみないと」 『……連れてくることに、大翔さんは同意なんですね」  そう言って、葛城が笑う。 「……別に。連れてってもいいかなとは思ったけど」  オレは慣れて飽き飽きしているけれど、奏斗の気分転換になるかもと、とっさに思ったのと――――……スーツ姿、ちょっと見てみたい。  葛城の提言に反対する理由は、特に見つからない。

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